【感想】人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き ジェリー・カプラン   

 人工知能の権威、レイ・カーツワイル博士が提唱したシンギュラリティ、人工知能2045年に人間の知能を超越するという特異点があるという予言。そこから、現在の第三次AI・人工知能ブームが始まったといっても過言ではない。

 本書もこのブームの中で発行され、多くの人々ビジネス書籍でオススメされていた。

 AIなる単語が登場するニュース等を目にすると、正直、言葉の定義からやり直したほうがいいのではないかと思うほど、AIに関する情報は玉石混合どころか、石しか存在しないように思う。

 石の説明を例えれば、記号システム型のAI(アルゴリズムをAIと呼び替えただけ)では、記号と論理規則を定義し、解決すべき問題の領域を"明確化"して対処される。これに対し、ニューラルネットワーク型のそれは、多くのインプットを加えれば、自動で対処されるというのが、居酒屋談義レベルの説明だか、それさえ怪しいのが多いように思う。(これも雑駁過ぎて、何も説明してないに等しいとは思うが)。

 本題の感想からは脱線したが、本書は学術、商業ベースの事例を混ぜ、AIが我々の、生活にどのように影響してくるかについて説明してくれている。今回は、その中でも興味深かった内容を引用していきたい。

 ネットを開いたときに、右上に登場する邪魔なネット広告、この広告のマーケティングの、人間への説得(この場合は商品の売込み)については、機械(合成頭脳)の方が優れているらしい。

ロケットフューエルンのCEOであるジョージ・ジュンと先ごろ話したのだが、皮肉なことに、説門の技術――人間特有の行動と見なされてもおかしくないところだが――にかけては、人間より合成頭脳のほうかずっとうまいのだそうだ。(中略)国際的に展開するファストフードの大手ピザチェーン)の広告を人が見てから、二週間以内にそこのピザを買う確率を算出してくれたのだ。「ヒートマップ」と呼ばれる精密に色分けされたチャートから緑のセルを選ぶと、周到に消費者集団を選択すれば、そのうわ九・二五から一一・三四五パーセントの人が二週間以内にそのチェーンのビザを注文するだろうということがわかった。その人々がかつてピザを食べたことがあるかどうか、それすら顧客から知る必要がないのである。のちに顧客から報告があったところでは、実際の数字は一〇・九パーセントだったそうだ。

 本書では、実際に、このマーケティングに関する技術的な説明もなされているが、これについては本書を手にとって確認してほしい(ウェブマーケティングを担当している人にとっては自明な内容が多いとは思うが)。

 もう一つ引用して、感想を締めたい。

 現在、奨学金と称する学生ローンが社会問題化している。ハッキリ言えば、大学を出たところで、そこで学んだ(遊んだ)内容は社会では全く役に立たないことが多い(真剣に学問と向き合いたい人は別にして)。大学ではなく、実践的な職業訓練校が社会から必要とされていると思うが、これについて、以下のように就活ローンが提言がされている。

訓練施設の経営はこの就活ローンに大きく依存することになるから、その定員は市場に存在する雇用の規模と自然に一致する。また講座の内容についても、目当ての技能を習得するために最適の講義がおこなわれるように、訓練施設のほうがつねに気を配るだろう。そうでなければ、ニーズに合っているという企業の承認が得られないからだ。したがって実質的に自己規制が働くから、これらの講座には国の認可制度などは必要ないはずである。
「他者にとって重要なのは、このローンは貸金からのみ返済されるということだ。将来の給与が担保なのである。月々の返済額は、たとえば手取りの二五パーセント以下というように、収入の一定割合以内に抑えるようにする。住宅ローンでは、収入に対する返済額の割合を貸し手側が規定しているが、それと同じことである。また、問題が生した場合に備えて救済措置を組み込んでおくことも必要だ。手取り収入が、政府の定める範困線の一五〇パーセント未満に落ち込んだ場合は、月々の返済を減額または延期できるようにする。また、このローンはあくまでも賃金からのみ返済されるのだから、どんな理由にせよ解雇された場合は、返済は実質的に停止され(利子は発生するにしても)、自動的に返済額・返済期限の見直しが行われる。

 この就活ローンのアイディアを読んだ時、多くの人はライザップを思い出したかもしれない。実際、成果型という点では似ているが、就活ローンの返済については住宅ローンのそれと同じシステムが援用されてもいるので、同じというわけではないだろう。

人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き

人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き