【感想】日本の「中国人」社会  中島恵

 コンビニエンスストアに立ち寄ると、働いているアルバイトは全員外国籍の留学生だけ。そんな光景をよく目にする。10年くらい前は中国人が多勢を締めていたが、現在はベトナムやインド等が多くなってきたように思う(あなたの近所でもそうでしょ?)。

 むしろ、近年の中国人留学生に限って言えば、アルバイトには勤(いそ)しまないケースが増えている。むしろ、バイトはせず、親の仕送りだけで日本で生活している中国人留学生も増えている事実に驚かされた。さらには、中国人観光客も目にするであろう。彼ら彼女らの買い物先は、銀座のブランドショップで、団体バスが横付けする光景も目にする。

 私も個人的な付き合いのある中国人からの情報で、色々と在日中国社会について、少しは知見がある。本書、「日本の「中国人」社会」を読み、自分の知っていることと突き合わせ、認識があっているところ、ブラッシュアップできたところもあれば、自分の傲慢さとでもいうか、中国マターに限らず、狭い認識、了見にとらわれていたことにも気付かされたりした。本書の感想でも、自分が持つ在日中国人情報と突き合わせ、答え合わせをしながら、ツラツラと書いていきたい。

富裕層に関しては、(マンション購入は)次のような傾向あると聞いた。「よく名前を聞くのは月島、豊洲、勝どき、お台場、田町、品川など比較的海辺に近い高級タワーマンションです。」

 これについて、品川や田町、豊洲に在住している人は、思い当たるフシが絶対にあるはず。なぜなら、湾岸エリアのタワーマンションには中国人の富裕層が多く住んでいるのを目にするからだそして、その子息らは近郊のインターナショナルスクールへ通わせるケースが多い(最近だと、千代田インターナショナルスクールが流行っていると、私は聞いた)。

 ではなぜ、あの湾岸エリアに中国人富裕層が集まるのかが、個人的には不思議でしょうがなかったのだが、それに対する答えは次のとおり。

オフィスビルでも海や川に近いことは中国では「風水的にいい」とされている。ある中国人の友人のオフィスは来場町のビルの最上階にあるが、「何といっても最上階は風水がいいので、オフィスを転居する際、 ぜひ最上階にしたいと決めていました。 眺めもいいし、近くに川もあって、中国人からみるととてもいい立地なんですよ」と話してくれた。

 風水だったのかと。あまりにも簡単すぎる答えに、私は少し肩の力が抜けた。

 中国大陸の湾岸エリアでは地震がなく、河川の洪水も日本のそれとは異なる。そのため、湾岸エリアに対する、地震、洪水、津波への警戒も、中国人からしたらまだ気づいていないのかもしれない。

 2019年10月の台風ハギスにより、東京でも洪水の危機が訪れた。今回の件は、今後、中国人富裕層への湾岸エリアでの購買行動に影響を及ぼすのか、気になるところではある。

 湾岸エリアはにも限らず、西川口等の東京近郊の郊外でも、富裕層には該当しないだろうが、若い中国人夫婦が戸建ての住宅を購入しているケースも目にする。それについて、彼ら彼女の考えは次のように述べられていた。

「日本にいればマイホームを持つという夢を比較的簡単に実現できる」そう考えるからだ。そのため、彼らは来日してわずか数年で家を購入しようとする傾向が
非常に強い。私の友人の蘇堂氏も、日本企業に入社して五年でマンションを購入した。「三〇代で未婚。仕事も変わるかもしれないのに、なぜ急いで家を買おうとするのか。」蘇氏は私の質問に不思議そうな顔をした。「なぜか、と聞かれても困りますね……。毎月払う家賃と同じくらいの金額のローンなら、買ったほうが断然お得でしょう。日本では、中国人というだけで大家さんが嫌な反応を示すことが多いし、それに購入したマンションは完全に自分の財産になるのですから、買える条件が整っているなら、むしろ買わないほうがおかしいと思います。中国と違って、日本では土地も自分のものになりますから

 中国の不動産は、都心部ではべらぼうなくらい高い。本当に高い。上海では、子供一人だけの若い夫婦が住むマンションを探しても、あまりにも狭いマンションしか購入の選択肢がないという話をよく聞く。そして、値段は日本円にして1億円を超えているのがスタンダードと。。。

 中国人が家を持ちたいと思う気持ちは、中国の土地自体がすべて国有という事情もあろう。だからか、中国ではインフラ開発のスピードが驚くほど早い。日本では一軒の住人が立ち退かないせいで、三十年以上も道路の拡張が進まないことがケースがあるのと比較するとむべもない。だからこそ、日本での土地の私有財産の強さに惹かれる面があるのではないかと、個人的には思っている。

 これとは別の要因として、不動産購入の選好は、中国の戸籍制度が影響している

誰でもマンションが買えるわけではない。戸籍による差別が存在しているからだ。つまり、内陸部出身の人が大都市で働いている場合、都市の団体戸籍に入っていても、それはもともと都市で生まれた住民の都市戸籍と完全に一致するものではない。中国の戸籍制度は非常に複雑でわかりにくいが、そもそもすべての中国国民は都市戸籍農村戸籍のいずれかを持っていて、統一されているわけではない。

 中国の戸籍制度は、当事者の中国人自身がその全容を理解できていない。我々外国人にはその中身を理解するのは、ほぼ不可能である。その戸籍の中の都市戸籍について、以下のように解説されている。

都市戸籍のなかには個人戸籍と団体戸籍の二種類あり、簡単にいうと北京生まれ北京育ちの人は個人戸籍、四川省生まれ、北京で働く人は団体戸籍を持つ。固体戸籍に入っていれば、社会保障制度は十分に受けられるが、地方からの外来者なので、個人戸籍保有者とすべとの面でおなじではない。政府はもともとの都市住民、つまり個人戸籍保有者を優遇し、外来者の流入を制限しているため、外来者は(ホワイトカラーの優秀な人材でも)もともとの住民と同じ条件で不動産を購入できない決まりになっている。とくに北京や上海ではその条件が厳しい。たとえば「上海に五年以上住み、その間に納税していなければ市内でマンションを購入することは不可」などの条件がつけられている。都市によって、また時期によって詳細な条件は頻繁に変わるが、近年は居住や納税の年数が以前よりも長く設定されるようになってきており、条件はますます厳しくなっている

 都市部のマンションは、値段が高騰してしまったこともあるが、戸籍に由来した販売制限(差別?)も存在していることに驚いた(中国人は戸籍制度については、訊ねてもあまり答えたがらない)。このような話を聞くと、日本の不動産は安く、戸籍に関係なく、所属している会社の信用で誰でもローンが組めるから、相対的は魅力があるのかもしれない。

(続く)

日本の「中国人」社会 (日経プレミアシリーズ)