【感想】野村證券第2事業法人部  横尾宣政

 世間的には忘れ去られている経済である、オリンパス事件。2011年、オリンパス社がバブル期の投資損失を会計計上ぜす、投資ファンドやらM&Aスキームやらを利用し、長年、帳簿外に損失を隠蔽し続けた経済事件である。やり口は高度な金融スキームのウンタラカンタラな説明が当時のマスコミ報道でなされていたが、単純に「飛ばし(中身の無い単語だから、知らない人は各自でお調べください)」である。

 その飛ばしの指南役とされるのが、本書の著書である横尾宣政氏である。彼は野村證券の役員まで勤めたお仁であり、本書を読むとかなりデキる営業マンであることが判る。

 本書では、前半は彼が野村證券の営業から成り上がる過程と、どのようにオリンパスと関わりを持っていったか、どのような利害関係者が関わってくるかを時系列に説明してくれている。後半は、前半の筆致とは異なり、本件の事件についてどのように自分が利用されたかについた説明がされている。

 本事件については、その是非(ぜひ)には言及しない。ただ、本書を読んだ第一の印象は、前半の営業武勇伝とは打って変わり、後半の章も同一人物が書いたとは思えないほどトーンが変わっていたなと思ったが、金融クラスタ(こちらもホントに中身の無い単語なので、意味を知りたければ各自で調べてほしい)が生息する「市況かぶ全力2階建」の記事でも同じようなことを言及していた。

 

あの果たし状はおまえだったのか、横尾宣政さんの「野村證券 第2事業法人部」が期待に違わず無茶苦茶 : 市況かぶ全力2階建

 

 いまさらこの事件について述べるつもりはない。横尾氏の野村證券時代のどドブ板営業(再度言う。意味がわからなければ、自分でググって)の経験から、成り上がりたいサラリーパーソンが役に立ちそうな箇所を引用していきたい。

 

【灰皿が飛ぶ】

 野村證券と名乗るだけで灰皿が飛んでくるほど激怒するお客は、実は良い人顧客になる。この様なケースでは、しっかりとお客の苦情を聞くのが良いとのこと。

 野村の名前を出して、灰皿が飛んでくるような状態で、相手の腹に飛び込める時点でいろいろと何かがズレている気もしなくもない。確かに、本当に嫌いな奴とは口を聞くことはまずないし。多分だが、この方法で相手の胸に飛び込んで、実際に成功する確率は100回に一度ぐらいではないのかな?

 

【土下座】

上下座は畳の上ではなく、必ず土間でやる。目線は上げても相手のネクタイの結び目ぐらいまで、「じゃあ、どうするんだ?」と問われて、初めて相手の目を見る。

 相手が怒ってる時の、あの時間を過ごすのはストレスフルなこと。ここまでやって、成功率は低いながらも、顧客を掴めるのかと。

 

【タクシー】

支店長車を借りて外交する時、家の前までは行かない。少し遠くに止めて、走っていく。客が呼んでくれたりのタクシーは断らず、近くを一回りしたら運転手に「絶対に社長には言わないでね」と釘を刺し、カネを渡して支店長車に乗り換える。

 これは何となくわかるかな。あるコピー会社へプレゼンする社員が、その会社ではない製品のコピー機で資料を印刷し、上司から営業先の会社のコピー機で資料の再印刷させられ、恨み節?なツイートが少し盛り上がっていた。このぐらいの相手への配慮はやって当たり前だし、この支店長車のエピソードもどこか通じるものがある。

 

【根負け】

客にしたい相手は一発で落とそうとしない、まず朝に訪問して「スメを買ってもらえませか」と頼む。「ダメ」と断られるの織り込み済み。午後に再度訪れる際にはいったん外で時間を潰し、近所を走って息が上がった状態になってから飛び込む。驚いた相手に「どうしたんだ?」と尋ねられると、「いや、今日はこの税金の本をお持ちしようと思っていたのですが、つい忘れてしまって…」などと答え、税金の本を置いて帰る。さらに夕方ちう一度訪ねる。すると相手は根負けして「しつこいな、君は」と笑いながら、何
かってくれる。

 単純に、押し売りだよね。

 

【勝負は最初に会った時】

勝負は最初に会った時に決まってしまうので、会話のオプションをいくつか用意して行かないと意味がない。新聞に出ている程度の海っぺらな知識では、相手にインパクトを与えることはできない。例えば相手の前でこんな言い方をして自らに宿題を与え、次に会う口実を作った。こういう時は資金運用の話をあえて持ち出さないのがミソ。

「貴社の浮動株(安定株主に保有されず、市場で流通する可能性の高い株)は多すぎませんか?次にお邪魔する時までに浮動株の算定をやっておきます」

「株主数が少ないので、端株(売買の最低単位にいたなら味式)整理を利用して株主を増やしませんか。今度、詳しい資料を作ってきます」

 ジョーカーを見せてポーカーをすることはない。自分の手持ちのカードをどこで切るかが大事なのかがよくわかるエピソード。

 

【しびれを切らす】

相手と初めて向かい合って座る際、売り込みの話は絶対にしない。しびれを切らした相手が「ところで今日は何の用?」と尋ねた時に初めて、その会社の株の話、為替の話、さらには野村総研のレポートを取り出して、「研究員を連れてきますから、社内で勉強会をさせて下さい」などと持ち掛ける。

 相手のしびれを切らしてから、話を持っていくのはいい。多くのセールスパーソンは自分は受け身でコミュニケーションをとってるつもりだろうが、実際には売り込みで喋りすぎている。相手のしびれを切れさせるのは、一つのやり方なのかもしれない。

 

【業界の問題に持ち込む】

幸運にも社長に会えた時できさえ、やはり運用の話はせず、「社長の会社について教えてください。経営方針は?」「少しおかしくありませんか?他の業界ではこうですが、それがこの業界の常識ですか?」などと、その会社と業界の問題に持ち込むのである。相手が「じゃあ、教えてやるよ」と身を乗り出したら、もうしめたもの。じっくりと話ができるようになる。本来について若造に反論された社長は、むきになって懸命に説明を始める。この時間がたまらなく楽しかった。この関係を続けていくと「ちょっと来てくれ」と呼び出され、経営に関する相談を受けるようになる。

 人たらしやな。

野村證券第2事業法人部

野村證券第2事業法人部

 
野村證券第2事業法人部 (講談社+α文庫)

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