カルロス・ゴーン:情報戦と人質司法

カルロス・ゴーン:経営幹部の逃亡 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

(前回の続き)

 カルロス・ゴーンの逃亡劇とその後について書いてみたい。

 2020年1月8日、カルロス・ゴーン氏が記者会見を行った。これは無論、国際世論への訴えかけと、情報戦を利するためにPR(パブリックリレーション、未だにこれに適切な日本語訳はない)を行ったものだ。彼は真のグローバル人材であり本物のグローバル経営者なだけあって、その能力は高い。会見では、英語のみならず、スペイン語ポルトガル語、フランス語、アラビア語で記者とコミュニケーションを取るシーンを見て、心底、私自身は驚かされた。彼のそのアンビバレントな経歴をみれば、その能力の高さも少しは納得できる(そして、アイデンティティも壊れていることが推察される)。

 この記者会見の翌日、森法務大臣も記者会見でカルロス・ゴーン氏についてカウンターを打った、記者クラブの前でだが。この記者会見で、「司法の場で無罪を証明すべき」と発言してしまい、大きな恥をかいた。

 彼女は弁護士資格を有し、決して能力が低いわけではないのだが、やはり日本の司法の現実(推定有罪の原理(原則なんかではない))を確実に知らしめてしまったと同時に、第一ラウンドの勝負は日本が大敗で決まった。

 ただ不幸中の幸いであったのが、翌日の新聞記事の社説では、この発言につて言及はなかったことだ、記者クラブメディアの中だけではあるが。良かった良かった。

 では、国際世論に影響力を行使できるメディアではどのように報じられていたか?私が確認した限りでは、総じて゛事実ベース゛でゴーン氏の記者会見について述べられていたと思う。ここで言う゛事実゛とは、客観的に確認できる事柄についてはそのまま記載し、裏取りが取れない内容については、言及はしないスタンスだ(楽器に隠れたなる話自体もフェイクニュースみたいだけれども)。

 そこで気になった記事を2つ引用したい。1つ目は、テレグラフ社の記事である。

Carlos Ghosn hasn't fled justice – he had little hope of a fair trial in Japan

 ゴーンの逃亡につて、映画、大脱走に例えて冒頭の記事が始まるのは醜悪だが、我慢して読むと次のような内容が目に入る。

He was held in prison for more than 100 days and subjected to hours of questioning daily with only limited access to his legal team.

 100日以上も拉致(らち)られ、弁護士とも会えないとなると、ロシアや中国のハナシかと思うが、れっきとした日本のシホウについての事実である。

 テレグラフ社自体、クオリティーペーパーと呼べる代物の新聞社ではないが、中流の比較的インテリ寄りには読まれる新聞であり、彼女ら、彼らがこの記事を読めばどのように思うかは想像に難(かた)くない。

 次はれっきとしたクオリティペーパー、ニューヨークタイムス社の記事について。

Carlos Ghosn Defends His Legacy - The New York Times

 テレグラフ紙と比べれば、エンターテインメント路線に走ることなかった。むしろ、ゴーン氏が社長時代、アメリカで罰金刑(法人としてだと思われるが)を受けている事実に言及し、決してゴーン氏寄りというスタンスではないと推察される。しかしながら、後半に読み進めるに従って、次の内容が目に飛び込んできた。

He was allowed to shower twice a week and was let out of his cell for 30 minutes a day.

  私は以前、佐藤優氏の出世作国家の罠を読み、拘置所の生活について少しは知っているつもりだったが、そんなことはなかった。シャワーが週に二回しか使えないとは。被疑者にもかかわらず、この扱いはまるで罪人のそれだ。私は、国家の罠で多くを訴えていた佐藤優氏の発言を理解できていなかった。

 もう一つ引用して、締めたい。

He was released on bail, but he was jailed again in April after he announced that he planned to speak with the press.

 ゴーン氏が保釈中、記者会見をしようと企て、再逮捕されたなる件についてだ。そうではない、事実誤認だと発言する日本人の識者もこの件については言及している。また、匿名掲示板でフェイクニュースだとした発言も散見される、何かをやった気にはなるのかもしれないが、匿名掲示板の外には何の影響も無い。

 残念ではあるが、日本はアジアの野蛮な、未開人がいる国家だと、英語圏から差別的に見られてしまっているのがよく判る。