【書評】空飛ぶ円盤が墜落した町へ 佐藤健寿(後編)

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【書評】空飛ぶ円盤が墜落した町へ 佐藤健寿(前編) - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

 本書では、ナチス残党が、南米、その中でもアルゼンチンに多くの残党が亡命したという、歴史的な事実を様々な文献とともに示している。そのような文献自体が登場することに、 本書が他のイロモノ的な、月刊ムー的なオカルト本と一線をかしてことを示している。著者は、ナチスの残党が生活したと言われている現地に足を運び、そこで、多くの、現地に住む方々からインタビューも行っている。第二次世界大戦後の当時を幼少期に生きた、亡命コミュニティの近くに住んでいた村人たちへのインタビューについてである。

 その中で、私が強く印象に残ったのが、当時小学生だった方々は、親から「絶対にあそこへ遊びに行ってはいけない!!」と強く言われ続けていたというセリフである。私はこれを読み鳥肌が立った。

 もし、この発言が実際の民事裁判での証言として使われようものなら、直接証拠どころか、傍証としても採用されることないであろう。

 しかしながら、親が子供に言い聞かせる「あそこへ行ってはいけない!!」には、誰もが大人になれば、それが何を意味するか察するものがある。

 私の中、このインタビューから、ナチスの残党の足跡が、命さながらに逃げてきた残党の息遣いを感じられた。

 本著でも述べられている(アルゼンチンに限らない)が、先祖について質問するのは、タブーであるとのこと。例えば、オーストラリア国籍の白人に、その彼ら彼女らの先祖について尋ねれば、冗談混じりながら「英国から懲役刑でやってきた囚人さ」と答えてくれる場合もあるが、好ましい質問ではない(わかるでしょ?)。日本人の中でも、差別問題に結びつきやすい、センシティブなタブーになりつつある(現代の農民の子孫が、侍のドラマを視聴していることへの皮肉とも言えなくもないが)。まして、自分達の祖先がナチスの戦犯であった可能性があればなおさら。

 本書は、 ルポタージュとしてもその完成度が高く、おすすめの一冊である。