【書評】空飛ぶ円盤が墜落した町へ 佐藤健寿(前編)

 本著のタイトルは読み手に月刊ムーのような読み物を連想させてしまうが、読み進めるとそれが誤りであることがすぐわかる。

 著者は奇妙なもの撮影し続けているフォトグラファー、奇界遺産という造語を作った佐藤健寿。彼が、90年代の日本ではやった UFO 特集などて陰謀が蠢(うごめ)くと称されるエリア51の風景を写真に収めることからストーリーが展開される。現在進行形の、新しいオカルトを追うのではなく、90年代に特集されていたオカルト、著者が子供の頃に見聞きしたオカルトのその後について調べていくことが、本書の醍醐味でもある。

 私が、興味深く、そして強く驚かされたのは、南米亡命したナチスについての記述である。いわゆる陰謀論よろしく、ナチスの科学者がUボートで南米へ亡命したという事件についてである。21世紀の現在でも、ナチスの親衛隊であった者は、たとえ齢(よわい)が90を超えていようと、モサドに逮捕されるというニュースが流れてくる。しかしながら、 ナチス残党が南米に亡命したという話は、どこか我々には現実感のない出来事として伝わっている。著者は、淡々とナチスの残党が存在したという足跡を我々に示してくれる。

(後編に続く)