【書評】素潜り世界一 人体の限界に挑む 篠宮龍三

 素潜りで深海を泳ぐと、どのような世界を観ることができるのか?そんな夢想をするほど、自分はプュアではないし、息ができなくなる恐怖と比較考量すれば、むべなくもない。多くの人はそのように感じるであろう、深い海の底へ、酸素ボンベをつけず、素潜りで深海をダイブし続けた日本人。

 この本を読む前は、超人的なアスリートが深海へダイブする世界を想像していた。しかしながら、本著に登場する篠宮龍三(にのみやりゅうぞう)氏は、そのような超人像とは異なり、街中を探せばどこにでもいそうな市井(しせい)の人を思わせる。彼は、サラリーマンからプロのダイバーへと転進、プロとして自分はやっていけるか不安を抱えながらも競技を行い、ブラックアウト(酸素不足による失神)を経験し、大スランプを起こすことから、プロとしての競技人生が始まる。

 本著では、競技を続けていく上で、どのようにあらゆる自分の中にいる恐怖と対峙していったか?また、彼は日本でフリーダイビングの世界大会をオーガナイズすることとなる。その過程で、心無い人から、心理的に、フリーダイビングを開催するために多額の金銭的な負担を抱え込んだか(そもそもフリーダイビング自体、大金を稼げるスポーツではない)について記載されている。

 私の読後の本書の印象としては、篠宮氏の苦労、苦悩話しが多かったように思う。しかしながら、一番印象に残ったのは、著者が語ったこのフレーズ。

ドキドキしたっていい、緊張したっていい、ありのままの自分を受け入れるよと思うようになった。プレッシャーをゼロにすることはできない。できないから、覚悟を決める。その積み重ねが心を強くする、磨いていくことになる。

 色々と響くものがある。

 

素潜り世界一 人体の限界に挑む (光文社新書)

素潜り世界一 人体の限界に挑む (光文社新書)