【感想】「無い仕事」の作り方 みうらじゅん

 雑誌のコラムでその名を見かけることはあるが、正直、何を生業(なりわい)としているのか不明な人物、それがみうらじゅん氏。

 本書はそのみうら氏がどのように仕事を作っていくか、その方法を余すことなく読者に提供してくれている。

 本書を読み驚かされたのは、ゆるキャラ命名者、そして今では1つの産業(いいすぎ?)にまで大きくしたのは、彼の功績だったということ。そのゆるキャラブームを生み出した過程が、彼の無い仕事を作り出し方を可視化してくれる。

 本書の内容もゆるめに書いてはくれているが、彼がやっていることは地味で時間のかかる、面白みもない作業を地道に続けることしか書いていない。かくも、仕事を作り出すには苦行が待ち受けている。

必要となってくるのが、無駄な努力です。興味の対象となるものを、大量に集めることから始めます。好きだから買うのではなく、買って圧倒的な量が集まってきたから好きになるという戦略です。人は「大量のもの」に弱いということが、長年の経験でわかってきました。大量に集まったものを目の前に出されると、こちらのエレクトしている気分が伝わって、「すごい!」と錯覚するのです。

 私は集められるかぎりの、「ゆるキャラ」を集め始めました。物産展にはなるべく多く足を運ぶ。片手に一眼レフ、もう片手にビデオカメラを持ち、二刀流で記録する。当時はまだぬいぐるみやシールなどのグッズは売っていなかったので、頼み込んで譲っていただく。そして説明が書かれたパンフレットを読み込み、そのゆるキャラの由来を記憶することも忘れてはいけません。

 このゆるキャラに関するあらゆる情報を集める作業を、いい年した大人がここまで他人から小馬鹿にされてもなお、必死に集めなければならないのかと驚かされる。

 そしてこんな利益を生み出すわけでもない、無駄にも感じられる不毛な苦行を行い、何の役にも立ちそうにもないことを覚え、虚(むな)しくならないのと思ってしまったが、著者は「そんなことを考える時間を与えてはなりません」と看過する。

 そして次にやるべきことが、これらの集めた情報を書籍やイベントで発表する場を作るとのこと。

 出版社では編集者を接待し連載へと漕ぎ着けるようにする。それが駄目であれば、イベント会社へ赴き、プレゼンを行う。

 誰でもプレゼンをする機会はあるであろう。そのプレゼンの途中で、この話は聞き手にウケているのかと心配になることが、誰にでもあると思う。そんな時に、みうら氏がイベント中に心の中で唱えている呪文は役に立つと思う。

 (誰も存在を知らない、興味も持ちようが)無いイベントの会場で、一人その素晴らしさを聴衆へ訴える、みうらじゅん氏の心の持ちようについての引用である。

「そこがいいんじゃない!」

 人はよく分からないものについて、すぐにつまらないと反応しがちであるが、この呪文を頭の中で反芻(はんすう)し、全肯定し、自分への自信を沸かせるような態度に尊敬を覚える。

 不安なプレゼンを控えた場合、この言葉を自分の中で唱えていきたいと思う。

「ない仕事」の作り方 (文春文庫)

「ない仕事」の作り方 (文春文庫)