【感想(続き)】「無い仕事」の作り方 みうらじゅん

https://trikiken.hatenablog.com/entry/2019/08/16/191110

 ゆるキャラなど、この世に存在しない仕事を作り出し、それを一人電通と自称する、何を生業(なりわい)としているか不明な人物、みうらじゅん

 今回も、彼が一人電通で仕事を作り出す過程で、サラリーパーソンにも役に立ちそうな記述を引用していきたい。

 出版社での売り込みに関し、接待の重要性についてこう語っている。

編集者がお酒で調子がよくなっているところを狙って、「打診」を始めます。
「あの囲み記事の連載だけど、1ページでやってみるのはどうかなあ?」
こちらにしてみれば大きなことですが、もしかしたら雑誌にとってはたいしたことがない差かもしれません。
「今モノクロベージだけど、あのネタはカラーで見せたほうがもっといいと思うんだけど」一気に、ではなく、徐々に、というのがテクニックです。次第に、自分がそのネタをもっと効果的に見せたいという、クオリティの面にまで「交渉」は及んでいきます。

 この話のあとに面白かったのは、飲み会の席での仕事の約束を守る編集者は、高い確率で出世していくとのこと。これも経験論からくる、1つの真理であろう。

 接待での小さなテクニックとして次のようなことも述べられている。

上司に誘われて、飲みに行く場合、誘ったのは上司だし、おごってくれるとわかっていても、お会計の前に外に出て待っているのはNGです。演技でもいいので、レジの前で財布からお金を出すふりをしてほしい。上司としてみれば「いいよ、ここは私が払うから」などと言って、おごるシーンを見せたいものなのです。

 そして、いくら「今日は無礼講」と言われたとしても、どんなに酔っぱらったとしても、最後まで敬語で通してください。敬語を使われて嬉しくない上司はいません。 

 話題の選び方も大事です。たまに空気を読まずに自分の話ばかり延々とする後輩がいますが、そんな人は次回から飲みの席に呼ばれません。とは言え、黙って聞いているだけでなく、たまにピリッと笑える話を差し込んだり、いいタイミングで間の手を入れるくらいを目指しましょう。(中略)タバコを吸う上司の場合、究極の奥義があり、タバコがなくなるタイミングで2箱の重ねのタバコをプレゼンするとのこと。

 やってることは地味で、クソつまらない作業ではあるが、1つのプロジェクトを完遂させるため、この程度のことは避けて通れないのかもしれない。男寡婦(おとこやもめ)な女衒(せげん)業務に思えてしまうかもしれないが、無い仕事を作り出すには、これくらいのことは必要条件なのであろう。

 そのように思いながらも、「接待力」は鍛えれば身につけることができますと看破(かんぱ)している。不思議とやってみようと思わせてくれる。

 次に、もし仮に、もし仮にではあるが、あなたが雑誌社からコラムの仕事を請け負った時、誰に向けてそのコラムを書くべきか?

 不特定多数へ向けて何かを書く、話す時、往々にして主張がボヤけて、何が言いたいのかがわからなくなることがあると思う(仕事のメール文で、何が言いたいのか意味不明なのが毎日、たくさん届いているから、皆わかるでしょ?)。

 みうら氏が、誰に向けて仕事をしているかを知って、なるほどと思ったので引用したい。

私は仕事をする際、「大人数に受けよう」という気持ちでは動いていません。それどころか、「この雑誌の連載は、あの後輩が笑ってくれるようにこう書こう」、「このイベントはいつもきてくれるあのファンにウケたい」と、ほぼ近しい一人や二人に向けてやっています。

 あるいは、その原稿や絵を最初に受け取る編集者を笑わせたいだけで書いていると言っても過言ではありません。
 知らない大多数の人に向けて仕事をするのは、無理です。顔が見えない人に向けては何も発信できないし、発信してみたところで、きっと伝えたいことがぼやけてしまいます。
 私の場合、そんな「喜ばせたい読者」の最高峰は誰かと言えば、それは母親です。

 最後に、無い仕事を作り出している、みうらじゅん氏の本音とも取れる愚痴?のような言葉を引用して締めたい。

 あらかじめひとつお断りしておくと、すべての「ない仕事」に共通しているのは、最初は怪訝に思われたり、当事者に嫌がられたり、怒られたりすることもあるということです。
 私だって大人になってから怒られたくはないですし、むしろいっぱい褒められたいと思っているにもかかわらずです。

 しかし「それでも自分は好きなんだ」という熱意を失わなければ、最終的には相手にも、お客さんにも喜んでもらえるのです。

「ない仕事」の作り方 (文春文庫)

「ない仕事」の作り方 (文春文庫)