【感想(数の声)】数に強くなる 畑村洋太郎 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め


【感想(数の作り方)】数に強くなる 畑村洋太郎 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

(前回の続き)

  本書は一般の人に、数学ではなく、数(かず)に強くなる方法を伝授してくれる。紹介した内容は、工学的な考え方をベースにした内容であったが、今回、引用するのは音楽についてである。

  私が本書を読んで一番印象に残り、そしてなかなか頭に落ちなかったのが、この章(数の声を聞く)である。

  先にネタバレをすると、人間が聞き取れる音域、可視域はピタゴラス定理(直角三角形の3辺の長さが3:4:5となる定理)となるのではないかという、著者の仮説である。音も光もすべては波、振動であり、そこに自然の摂理が存在しても不思議ではない。まずは、以下の文章を読んでほしい。

「人間の耳は、50ヘルツから3キロヘルツの音を聞き取れる」と書いてある。たしかにそうである。しかし、「20ヘルツ」とか「20キロヘルツ」という細かい数は、ひとまず置いておく。本当に大事なのは、「人間の耳は1000倍の世界を捉えられる」ということである。

   本書では2倍から半分までの誤差であれば許容できると紹介した。そこを飛び越えるケタ違いは許容されないとも述べていたが、音域ではそれとは大きく異なる桁違いの振動数が存在する。しかしながら、著者はこの振動数を10を底にした対数スケールに変換し、次のように図示化している。

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  私はこの図を見て、とても美しいと感じた。音楽の世界は分からないけれども、この図が示す世界観に惚れ惚れ(ほれぼれ)としてしまった

対数的なのは耳だけではない。目も対数的でできているのではなかろうか。目は光を捉える感覚器だが、光の場合は振動数が高くて、耳のようなメカニカルな仕組みが使えない。そこで、錐体(すいたい)の中にある有機化合物である「オブシンタンパク質」によって、ずっと低い振動数に変換しているのだろうと筆者は考えている。蛇足のついでにもっと書くと、本当は耳や目だけでなく、「味覚」も「嗅覚」も「触覚」も対数的なのではないかと筆者は考えている。つまり、人間の五感はすべて対数で成り立っているのではないか、というのが筆者の究極の仮説である。

    対数のスケールで、振動数をその変換器(五感)で変え、感覚として捉えている世界。考えるだけで、ゾクゾクするし、この世界観を提示してくれた畑村氏には敬意しか評せない。

    畑村氏は平均律の音階が1オクターブを12にわけられ、階段を一段ごとに登るごとに音の高さが6%掛けについて、6%の12乗が2倍になることを引き合いに、6%の原理を提唱している。これも面白いのて、本書を読んでほしい。

 和音の美しさとはどんなものか。ここでは、いわゆる「3和音」で考えることにしよう。すなわち、基準になる音と、そこから三度上の音と、五度上の音との3つを合わせた和音である。3和音には、ドミソ、レファラ、ミソシ、ファラド、ソシレ、ラドミ、シレファの7種類がある。
筆者はこの7つある和音の中では「ドミソ」が一番好きである。

   和音の組み合わせから、ドミソの音域で、このブログの冒頭で述べたピタゴラス定理を援用し、和音の世界での数について知ることができる。

   この美しい世界か視覚で感じることができるので、本書を読むことをおすすめする。

数に強くなる (岩波新書)

数に強くなる (岩波新書)