【感想(会話ネタ)】サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 鈴木智彦

 「魚を食べているあなたは、反社会的勢力に犯罪資金を提供する共生者だ」

 もしあなたがこのように言われたら、どの思うだろうか。頭の中に?(はてなマーク)がたくさん浮かぶと思う。

 これはフィクションの話では無く、暴力団を対象とした、優れた記事を提供して要るジャーナリスト、鈴木智彦氏が取材を通じて我々に伝えてくれる、いま現在も続いている確実な事象である。

 本書のタイトル、「サカナとヤクザ」と書かれている通り、漁業の世界にいかにヤクザが喰い込んでいるかを本書は赤裸々に語ってくれている。例えば、

 

  • 水産庁の役人が漁業にヤクザが絡んでいることを認めている
  • 没収された密漁道具を、捕まった密漁団が買い戻す
  • 発電所周辺海域では密漁しても、取り締まる法律がない

 

 多くの人にはにわかには信じがたい多くの事実が書かれている。しかしながら、これは鈴木氏が取材で裏付された事実である。本書を引用しながら、会話のネタになりそうな事柄をピックアップしていきたい。

【看板のレンタル】

 まず、暴力団とはについて本書の説明を引用したい。ヤクザの一日をイメージすると、組事務所にいるイメージを持っているかもしれない。しかしながら、鈴木氏は次のように述べている。

昔から兼業ヤクザともいうべき人種はけっこういる。タクシー運転手をしながら、転酒屋で働きながらヤクザをやるというケースは思いの外多い。その代表格が土建屋ヤクザだ。 マスコミや警察は、ヤクザが土建業に進出しているととらえているが、それは実情に即していない。彼らは土建業が正業で、ヤクザはあくまで副次的だ。ヤクザが土建屋になったのではなく、土建屋ヤクザもしていると表現するのが正しい。それぞれ仕事を持っている個人事業主の互助会 …それがヤクザであり暴力団の姿である。

 まず、この時点で多くの人は驚かされると思う。ヤクザが土建業に進出しているようなイメージがあったが、そうではなく、土建屋(に限らず、他の仕事をしている者)が、暴力団もしているのだ。

 では武闘派のヤクザはいないのかというと、次のように述べられている。

そもそもヤクザは商売ではない。ヤクザのブライドは、額に汗して働かないことである。実際、極めて高い能力とそれを換金できる才覚さえあれば、縄張り内でトラブルシューターになれる。が、暴力の専業者になれるのは一握りしかいない。武闘派と呼ばれる組織に本当の暴力派は数人だけで、あとはイメージをレンタルしている。ヤクザ組織の基礎を支えているのは非業ヤクザ、つまり正業を持つ人間たちなのだ

 暴力団のトップは一握りだけであり、あとは暴力団の看板をレンタルしているというのが正しい理解につながるようだ。

 【密漁団、密漁道具を買い戻す。役所から】

 上記タイトルの通り、密漁団が密漁道具を役所から買い戻すという、何かのお笑いコントかとかと思ってしまうが、れっきとした取材されたはなし。

押収された密漁品がどうなるのか、海保の職員に訊いてきた。「生きていれば獲った海に放流します。駄目なら地元の組合に買い取ってもらう。市場価格で、キロ4000円のヤツを、じゃあ密漁もんだから2500円とか。実は組合にとってはおいしいんですよ。昔よく毛ガニやズワイの密魚があると、弱ってるから買い取るとめちゃめちゃ安いんです。あと雌ガニとか稚ガ二もかかってる。それは市場に出せないんで廃棄という名目で引き取ってもらいますけど、捨てないでしょうね。売り上げは国庫に入ります。」

 押収された密漁品のやり取りについて、鈴木氏が海上保安庁と取材したやり取りである。内容を読んだ限り、特段、運用としては何も問題がないように感じる(むしろ適切)。しかし、このあとの展開には驚かされる。

しかしその後、押収された道具を密漁団が買い戻していると分かったときは衝撃だった。そんな馬鹿な話があっていいはずがない。電話口でいぶかしがっていると、ケツ持ちの暴力団から「じゃあ自分で見てみろよ」と誘われた。早速現地に向かった。下見が出来ると言うので、札幌検察庁の某支部まで出向いた。

(中略)「無線とか100円でいいから入札してくださいね」別れ際、検察官から愛想を振りまいた。官報には公示しているらしいが、まさか一般人は押収した道具一式が競売にかけられ、当事者が買い戻すと思っていないはずだ。 業力団が用意したバイヤーが買い戻そうとしたが、私が顔を出したせいもあったのか、少々騒ぎになってしまい、結局、地元の業者を間に立てて落札することになった。 いまも密漁団たちはこの時に落札した道具で、仕事に精を出している。

 本書に記載された事実に驚いた人も多いと思う。結局、押収した道具を同じ犯罪組織に買い戻されてしまっては、同じ犯罪が密漁が、ただただ繰り返されるだけなのだから。

【ウナギ】

 ウナギの漁獲量は低下の一途を辿っているし、絶滅寸前とメディアは喧伝している。しかしながら、研究者が言うには、自然に存在するウナギの絶滅を止めることは、どのようなことをしてもまず不可能であること。むしろ、それが絶滅がいつになるのかが学術的に議論されているらしい。

 そんなウナギについて、水産庁で取材した著者は、水産庁から次のようなしぐさを目撃することとなる。長くなるが、正確に引用する。

(引用者注記:ウナギの稚魚であるシラスが)レッドリスト指定後、ワシントン条約の附属書に記載される恐れが生まれ、危機感を持った水産庁も重い腰を上げた。養鰻業に届け出を義務付け、平成9年6月に内水面漁業振興法の施行令を改正し、11月以降に新たにウナギ養殖を始める事業者を対象として許可制 に移行。池入れのシラス量を前年の8割に削減したのだ。シラスに手をつけられないのは 水産庁にも自覚がある。

 霞が関に取材に行った際、「(類に傷を描く仕草で)この人たちは密流通にいますから」と水産庁職員は教えてくれた。官僚が暴力団の関与を認める産業が他にあるだろうか。

 ウナギの稚魚、シラスと取引には暴力団が絡んでいると噂は昔からあったが、それは水産庁でも把握されている公然の秘密秘密であることが、上記の証言から証明されている。

 これだけ見ると、水産庁がケシカランと叫ぶ輩が出てきそうだから、本書を読むとその構造的要因がよくわかる。水産庁の不作為が全くないとは言えないが、この官庁一つだけで問題が解決できるほど、甘いものではない。 

(続く)