【感想(会話ネタ2)】サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 鈴木智彦


【感想(会話ネタ)】サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う 鈴木智彦 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

(前回からの続き)

 如何(いか)に漁業に反社会的勢力が介在しているか、鈴木智彦氏のルポタージュを参考にまとめていきたい。

【ナマコの公然の秘密】

 ナマコを食す文化が一部の地域には存在するとは聞いているが、基本、その見た目の気持ち悪さから、一般的な食材とはみなされていない。

 このナマコであるが、中国では高級食材として取り扱われている。そのため、日本から中国へ多くのナマコが輸出されているのだが、ナマコの価格が高騰し、正規の値段で買っても業者は利益が出ないらしい。では、どのようにして利益を出すのか?

この手(引用者注:ナマコの仲買業者)の商売って買う人が決まってる。だいたいまともな人はあまり買わない。まともじゃないっていうのは悪い人って意味じゃねえよ。少しくらい危ない橋でも渡ってやるぞってくらいの気持ちじゃないと買えないってこと。だから仲買でナマコを買った業者は「誰々の(暴力団の)系列だ」とか、「あいつも密漁もん買ってるから何回も捕まって、いま娘の名前でやってんだべ」とか言われる。実際、密漁もん買わないとあんな値段を出せない。

 これは北海道の某漁業組合の元組合長の発言である。合法的なナマコ価格は高すぎて、それを買ってもは利益がだせず、非合法の、密漁品を売買して、利益が出せる。これは北海道の漁業関係者の中では、公然の秘密となっているらしい。

発電所

発電所の周りは漁業権(日本の漁業が衰退している原因の一つであり、本書では"あえて"取り扱わなかった)が設定されていないため、密漁しても取り締まりができないらしい。鈴木氏はこれについても同行取材を試みたが、仲介した暴力団を使っても、密漁団は首を縦に振らず、取材はできなかった。ただし、別の角度からは取材をして、その実態を我々に示してくれている。

後日、(引用者注記:密猟団の)リーダーが電話取材に応じてくれた。通常はナマコの多い港を狙って密漁をする そのうち、発電所は安全だという話を仲間内で聞きつけ、試してみたくなったのだという。 「最初、本当に捕まらないのか疑心暗鬼だった。もう何年もやってるけど、一度もパクられたことないです。海保だろうと察だろうと、通報が有っても法的根拠がないからね。逮捕出来ないんだよ。 北電 (北海道電力) からの通報もあるらしいが、深夜まで密漁の監視はしてないから漁は出来る。そらに本音を言えば排水口を塞いでしまう海産物は発電所にとって迷惑だもん、内心、無料で掃除をしてくれてありがたいと感謝してるかもしれね えよ。警察は何だって逮捕してくるから、あまりやりすぎたらパクられるかもですね」

 密漁団が何を云わんと思うが、確実に法律の盲点をついている。そもそも取り締まる法律が無いのでは、取り締まりようがない。

 発電所近郊の漁業関係者は大変困っている。なぜなら、彼ら彼女らが稚魚から育て放流した魚を盗られてしまうのだから。啓蒙活動を行って行きたくても、発電所周りて漁業権が無く、魚が取り放題だと知られてしまえば、逆効果になりかねない。

【処方箋】

 実は漁業関係者の収入を崩さず、魚の流通の値崩れを防ぐ方法はある。ニュージーランドが行っている下げセリという方法である。下げセリは、魚の入札金額を高い値段から設定し、ゆっくり値段を下げながら入札を待つ方法だ。規定の値段に達しても売れない場合、海外に輸出される。値崩れを防いだ、合理的な方法だが、一向に改めようとしないのだ。この話を聞いた鈴木氏は以下のやうな感想を抱いている。

処方は分かっているのに手が付けられない。日本の漁業を知れば知るほど、密漁など大した問題ではないと思えてくる。実際、ジャーナリスティックに告発したいのではない。 だが、食の問題は我々の生きる根幹だ。不正がここまで常態化しているのに、漁業をコントロールすることなどできはしないだろう

 鈴木氏は密漁の取材を進めていく上で、日本の漁業の構造的なの問題を痛感している。そらは日本独自の法律、漁業権であるが、それをジャーナリスティックに告発するのがら彼の目的ではない。この問題については、勝川俊雄氏の言説が理解を深めてくれる。

 

なぜ、巻き網やトロールは、魚が減っても漁獲が維持できるのか。そのメカニズムを解説 - 勝川俊雄公式サイト

 

オリンピックでは持続可能で環境に配慮した魚を提供しなくてはならない。ロンドンやリオではMSC/ASC認証が採用された。通称、海のエコラベルと呼ばれる国際基準を当てはめると、日本が提供できるのは北海道のホタテなど数品目しかないため、2020年の東京オリンピックではMEL/AELという独自基準を採用した。国際基準は到底クリアできないので、水産庁の外郭団体に審査を担当させ、大幅に基準を甘くした。 「これだともはや初期資源の1パーセントしか存在しない絶滅危惧種クロマグロの産卵群を、巻き網で一緒打尽にする漁業でもOKになる。

 持続可能な社会という、世界的な潮流ができつつある。水産資源もその中の一つとなる。日本の管理は、上記の通り。これが美しい日本の現実である。

せっかくの機会である。日本の漁業に暴力団と密漁が蔓延(はびこ)っている現状も知ってもらえばいい。YAKUZAはもはや訳すことなく、外国人に通じる。

これこそが日本の食文化なのだ、と。

サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う

サカナとヤクザ: 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う