【感想(しつけ)】子どもの脳を伸ばす「しつけ」 ダニエル・J・シーゲル

 子供が癇癪(かんしゃく)を起こし、怒鳴り散らして応戦する親は多いと思う。しかし、それはいい解決方法ではないと、多くの親はうすうすは感じているかと思う。そんのように、子育てで困ったことを解決するのに、本書は少し役立つかもしれない。

 著者は、医科大教授の夫、児童青年心理療法士である妻、そして現在3人の子供を育てている夫婦であり、個人的な経験と臨床経験、最新の脳の発達に関する科学研究の知見をもとに本書を構成している。

 あなたがふだん行っているであろう、子供へのしつけ(感情を爆発させて怒る等)は、残念ながら良い方法ではない。著者はしつけの基礎は、次の簡潔な言葉にいくつくという。

「つながり」と「切り替え」

 こちらについてはおいおい説明していくとして、まずは本書にリストアップされていたしつけの間違いについて引用したい。20個ほどの間違いリストが掲載されているが、すべてを載せるわけには行かないので、気になった箇所だけ引用となる。

(しゃべりすぎる)

子どもがかんしゃくを起こして耳を傾けられなくなっているとき、親はただ黙っていなければならない。混乱した子どもに向かっていくらしゃべっても、たいていは逆効果だ。さらに気持ちが乱れてしまう。かわりに、ことば以外のコミュニケーションを使おう。抱きしめ、肩を抱き、微笑みかけて、うなずく。子どもが気を落ち着けて耳を傾けられるようになってから、ことばを使って論理的に問題に向き合えば、切り替えられるだろう。

 子供がかんしゃくをおこし、それに応戦している親は本当に多い。最近では、アンガーマネジメントなる怒りをコントロールすることが推奨されているが、どこか通じるところがあるかと思う。感情的に怒鳴り散らす人間の言葉に耳を傾ける人は存在しない。それは子供がかんしゃくを起こしてるからと、大人が同じことをしていいわけではない(でしよ?)。

(子どもの後ろ向きな気持ちを否定)

何かが思いどおりにならなくて、子どもが激しく反応したとき、その反応を止めたことはないだろうか?そうするつもりはなくても、親はよく、子どもが楽しそうにしているときにはそばにいたいが、後ろ向きな感情を見せているときには近づきたくないというメッセージを伝えてしまう。たとえば、「いい子になれそうなら、また家族に戻れるわよ!」などと言ったりする。そうではなく、最悪のふるまいをしているときでも、そばにいると伝えたい。1つのふるまいや気持ちの表現のしかたに「だめ」と言っても、子どもの気持ちには「いいよ」と言おう。

 部分否定からの全体否定、それも子どもの人格に対して。あるあるだと思う。どんな時でも、親としては、子どものそばにいること、味方であることを伝えておきたい。

(子どもの"感情"を軽く見る)

子どもがかんしゃくを起こしたとき、特にそれが的はずれでバカげて見えると、ついこんなことを言いたくなる。「疲れてるだけよ」、「大騒ぎするのはやめろ」、「そんなにたいしたことじゃないでしょう」、「なんでそんなことで泣くんだ?」。しかし、そういうことを言えば、子どものそのときの感情を軽んじることになる。あなたが混乱しているとき、誰かがこのうちのどれかを言ったら と想像してみてほしい。とっさに反応する前に、じっくり耳を傾け、子どものことを心から理解するほうが、ずっと効果的な対応ができる。あなたにはバカげて見えても、子どもにとってはとても現実的なのだということを忘れないでほしい。

 ついつい子どもの人格を低く見てしまうことが多い。自分もおおいに反省するところがある。感情の爆発は、真剣なのだ。決して揶揄してはならないことを戒めたいと思う。

【しつけとは】

 本書で定義されているしつけについて引用する。その前に、しつけとは何かを自分なりに考えてほしい。どこかペットの調教に近いものになっているかと思う。アレはだめ、これはダメと。

しつけの2つの目的は、

①できるだけ早く外面のふるまいをきち んとさせること

②ゆっくり気長に脳の内面の構造を育てて、よいふるまいと人づき合いのスキルを養うこと

 シンプルなことが記述されている。どこの子育て本でも書いてある内容だ。何も目新しい事はない。ただしどうやればいいのか?

 ついつい、子供に対して怖い顔をして、ルールをどなり、思い知らせる方法をやってしまうが、それで子どもから感謝されたことがあるだろうか(あるわけない)?

 アンガーコントロールもかねて、子供のよろしくない振る舞いに対しあなたが怒る前に、次の簡単な3つの質問を自分にしてみよう。あくまでも、自問することである。

[1] なぜ子どもは「こんなこと」をしたのか?

[2]今ここで、何を教えたい?

[3] どうやって教えるのがいちばんいい?

 [2]について補足したい。しつけは子どもに対しての罰を与えること、あなたの気持ちをスッキリさせるために行うものではない。

 さらに[3]についても補足したい。すぐに型にはまった報いを与えないようにしたい。

 例えば、あなたの子どもが宿題をやらずに、やるように言ったら、泣き出して怒ったとする。その時のあなたは、般若(はんにゃ)のような顔をして、「帰ってからすぐにやっていれば、今頃終わってたんだ」と怒鳴り散らすであろう。

 そこで、[1] なぜ子どもは「こんなこと」をしたのか?について考えてみよう。子どもは学校に行ってから疲れている。他に習い事があったり、友達との遊ぶ約束を努めたのかもしれない。寝不足だってありえるだろう。宿題をやらなくて良いわけではない。しかしながら、相手の背景を考えれば、あなたの中の反応も変わるであろう。

 [2]今ここで、何を教えたい?について、考えてみよう。時間の使い方?焦らずに宿題をやること?いろいろと自問してほしい。

 最後に、[3] どうやって教えるのがいちばんいい?かについて。もし仮に、子どもが泣いたりして感情の洪水を流している時は、相手が落ち着くのを待てばいい。そんな時に話しかけても、頭には何も残らない、あなたの般若(はんにゃ)ヅラした顔以外は。このときには、一緒に宿題を手伝ってあげるのがいい。子どもが落ち着いたときには、話しを聞いてあげ、子どもにその解決策を考えさせればいい。まだ、解決策を提示するには至らないと思うが、できるだけ考えさせるように。すぐに結果は出ないが、続けることが大事だ。

 

 

【感想(情報源)】メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 渡瀬裕哉


【感想(トランプ大統領の選挙力学)】メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 渡瀬裕哉 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

(前回分)

  ここでは本書の中から、個人的に気になった箇所だけピックアップしていきたい。主に、著者がアメリカ政治の分析に利用している公開情報である。それとは別に、少し気になる、平和そうではない組織についても備忘録がてら残しておきたい。

【情報源】

      英語に強い日本人はニューヨーク・タイムズやCNN.ワシントン・ポストを情報源として、アメリカ大統領の評価を目に耳にしていると思う。著者はトランプ大統領の政権動向を分析する際、ペンス副大統領を中心とした共和党保守派が屋台骨を支えている政権であると定義している。その保守派の思考を読み取れるのが次の情報源となる。

 

『The Daily Signal』

The Daily Signal: Policy News, Conservative Analysis and Opinion

日々のニュースに対して保守派のタイムリー な主張を提供するメディア。トランプ政権の意向を分析する上では必須の情報。

 

ワシントン・タイムズ

Washington Times - Politics, Breaking News, US and World News

保守派の意向を知れるもう一つの情報源。余裕がある人は読むことを著者は推奨している。

 

『Politico』

Politics, Policy, Political News - POLITICO

『Roll Call』

Homepage - Roll Call

保守派以外の米国政局情報を追いたい人向け。Politicoは毎日の政局ニュースをまとめてくれている。Roll Callは上院下院の議会動向をまとめてくれているらしい。米国は連邦議会が政治的な意思決定につよく影響している。その駆け引き具合がよみとれるらしい。

 

『Cook Political Peport』

Home | The Cook Political Report

有料サイト。この分析記事をそのまま日本語にすれば、立派な米国の選挙予想がてきるとのこと。

 

『ウォールストリートジャーナル』

共和党主流派のオーソドックスな分析記事が提供されている。

 

『Axios』

Axios

反トランプの新興メディア、クセが強め。参考資料までに。

 

『The American Conservative』

The American Conservative

リバタリアン系の情報源。こちらも補助的な資料。

 

【宗教外交】

 情報源で上げているサイトをいくつか見ていると何となく感じるものがあるが、宗教団体の影がチラホラと浮かび上がってくる。

トランプ政権肝いりの国際会議である Ministerial to Advance Religious Freedom の第2回会合が、2019年7月中旬に米国で開催された。同国際会議は全世界の信仰の自由を守 るために100カ国・1000人以上のキーパーソンが集まり、その強い意志を示すことを 目的としている。

(中略)2019年にはペンス副大統領とポンペオ国務長官が登壇し、各々の観点から素晴らしいスピーチが行われた。ペンス副大統領のスピーチは昨年会合における成果に触れつつも、いまだ全世界に残る宗教弾圧国に対して痛烈なメッセージを発するものであり、それはそのまトランプ政権の外交方針を示すものであった。

  宗教勢力はどこでも影響力を拡張している。古今東西、昔も今も。

ポンペオ国務長官の提案は「国際宗教自由同盟」を創設するというものだ。同氏によると、 この同盟は宗派の違いを越えて信仰の自由を守るために活動するという趣旨の集まりになる という。具体的な組織の在り方や活動内容については明瞭ではないが、現在の世界情勢に鑑み、日本政府はこの取り組みに対して静観を決め込むことは難しくなるだろう。「当然のことであるが、宗教弾圧が最も過酷な国は、共産主義国一神教色の強い国である。 具体的に言えば中国やイランのような国々を指していることは、一連の演説内容を見ても間違ういないことだ。宗教弾圧の対象となっているとはいえ、人々の信仰の力は非常に強力な側面があり、信念ある人々による抵抗はそれらの国々の体制を揺るがすきっかけを作り出すこともある。今回の米国が示した方針は、それらの信仰者を支援し、公然のネットワークを構築し、他国の体制に手を突っ込むことを宣言したに等しいものだ。

(中略)宗教教迫害をテーマにした世界の二極化の流れが出てくることは、日本人にとっては国際社会に おける不慣れな航海を強いられることを意味する。

メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 (PHP新書)

メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 (PHP新書)

 

 

【感想(美術品の意思)】美意識の値段 山口桂


【感想(芸術−鑑賞法)】美意識の値段 山口桂 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

(前回からの続き)

 前回、美術品オークションについて、美術品の価値となるファクターの一つ「来歴」、そして美術品の鑑賞方法について記載した。

 今回は会話のネタになりそうな事柄を、本書をもとにまとめていきたい。もう一度、美術品とは。

【美術品の意思】

「美術品」とは、

(1)人を介さずには存在しない。自分ひとりで山奥に閉じ籠もり、一切人に会わずに絵を描き、それを誰にも見せずに自分だけで悦に入り、自分が死ぬ時に全て焼き捨てて灰にしてしまう。これを芸術品とは呼ばない。

(2)来歴が必ず存在する:美術品には必ず何らかの「来歴」が有る。それはその作品が誕生して以来、誰かによって意図的に伝えられて来たからである

(3)人は死ぬが作品は残る:如何なる美術品も何時かその作者は世を去り、持ち主も次々と死んで行く事に為るが、それでも作品は残り、次の持ち主へと引き継がれる

 美術品とは多くの人がその作品を後世に伝えてきた歴史でもある。戦争、災害、疫病と人類が生存の危機に瀕する状況が襲われてきても尚、美術品は後世に残り、伝わってきた。そこが意味することを、後世に生きる我々は先人に感謝し、その作品が残された意味を感じていきたい。

そしてこれ等の事を考えると、私には「美術品」が恰も「遺伝子」の様に思えて来るのだ。人間の肉体である「所有者」=「来歴」を何十、何百、いや古代美術で云うならもしかしたら何千と云う数を経て、それが今美術館や博物館、コレクターやもしかしたら貴方の家に在ると云う事実。それは貴方自身が今存在している事実と符合する。そして時にはまるで「美術品自身の意思」が次の所有者を選んで残って行くのではないか、と思える程に、作品が「行くべき場所」に移動する場合も有る。これも何処か遺伝子的な「必然性」に満ち満ちている気がするし、或いは数多の美術品の中で、目利きが選び続けた良い美術品が選択されて残って行く、と云うのも、何か有機的な感じがしてしまうのだ。 

 人間が美術品を選んでいるのではなく、美術品が、作品が有機的に、必然的にコレクターを選んでいるというのは、この世界に生きる人でないと、なかなか感じられない概念だと思う。それだけ、多くの芸術作品に対し、いろいろな気持ちを持っているのだと思う。

【贋作問題】

 当たり前であるが、価値ある美術作品にはビッグマネーが動く。そのマネーをかすめとろうとする輩はわんさか湧いてくるのは自明のこと。贋作について、本書の内容を引用したい。

古美術の贋作に関しては、特に江戸末から明治時代に多かった。より近い時代だと、 有名な物に「春峯庵(しゅんぽうあん)事件」が有る。一九三四(昭和九)年に起きた、肉筆浮世絵の大規模な偽造事件だ。この年、東京美術倶楽部では「春峯庵」なる旧家の所蔵品との触れ込みで、写楽歌麿等の肉筆浮世絵の入札会が開かれた。「世界の大発見」との新聞報道も有り注目されたが、やがて何と全て贋作と発覚したのである。最終的に、これを持ち込んだ画商や贋作を描いた絵師等の集団が詐欺罪で摘発された。

 近い時代とあったが、およそ80年ほど前の事件である(もっと近い時代の贋作事件はないのかな?)。現在ではX線検査等で、物性から凡その年代を調べることが可能であるのも影響しているのだろうか?

また「永仁の壺事件」をご存知の読者も居るだろう。一九五九(昭和三四)年に、「永仁二年」(一二九四年)の銘を持つ瓶子(へいし、壺の一種)が鎌倉期の古瀬戸の傑作として国の重要文化財に指定された。だがその直後から贋作疑惑が持ち上がり、やがて陶芸家の加藤唐九郎がこの壺は自分が一九三七年頃に作ったと告白。真相は諸説有れど、当時の文化財保護委員会が行った X線蛍光分析等の結果、同作は鎌倉時代のモノでは無いと結論付けられた。斯くしてこの壺は 一度与えられた重要文化財の指定を解除されたのである。これは行政、学界、美術界を巻き込んだ大贋作事件と云える。

 重要文化財の指定を解除されたとは大事だ。これを読んで思い出したのが、日本の考古学会の神の手事件である。この学会は、英語の論文で査読を受けた論文を発表していなかった。内輪の論理で、日本の古代史を捏造していたのが原因だが、それを想起してしまったのは失礼だったかな?

 海外でも贋作問題はもちろん存在する。有名どころは、映画にもなった『ナチスの愛したフェルメール』であろう。

こうした贋作騒動は、実はとの国でも何かしら起きている。有名なのは、オランダの「天才的」贋作画家と云われたハン・ファン・メーヘレン。彼は1945年に、フェルメール作とさ れていた絵画をナチス・ドイツの高官に売った罪で逮捕・起訴された。当初、オランダ当局は 文化財の略奪者として(つまりフェルメールの真作を売り渡した罪人として)長期の懲役刑を求めたが、メーヘレンは自分が売却した絵画群は自ら手がけた廣作だと告白。法廷で実際にフェルメール風の絵を描いてもみせたと云う。彼の贋作作りはその模倣ぶりに加え、当時の真贋判定 を欺く為に画材選びから仕上げ迄徹底していた。X線写真等の最新鑑定の結果、彼の主張通り一連の絵画は贋作だと証明された結果、メーヘレンは「売国奴」から一転、「ナチス・ドイツを騙した男」として英雄視さえされるようになった。

 また、贋作問題ではないが、ナチスから略奪された絵画が返還される物語もある。映画『黄金のアデーレ 名画の返還』もあるので、あわせて観ると感じるものがあるかと思う。

【永遠の「現代美術」】

 歴史には始まりがある。挑戦しないことには、何も始まらない。

さて、私がオークション・ハウスのスペシャリストとして長く過ごしたニューヨークと云う街は、如何なるアート分野に於いても宝島である事は間違いないが、その中でも特に「現代美術」の宝庫である。それはアメリカと云う国の歴史と、この街の特性に拠る。何しろこの街は「新しいモノ」が生まれ易い街で、それは多国籍・多宗教な住民達に拠る異文化混淆(こんこう)が、嘗(かつ)て無いアートを生み出す土壌を作っているからだ。そしてこの街は、アーティスト達を差別無く迎え入れるし、彼等への援助もする。だが、其処に住む住民達の目は肥えていて、そう簡単には彼等を甘やかさない。来たい人は拒まないが、生きていくには厳しい街なのだ。

 ハードボイルド探偵の小節を読んでいるかのような気持ちにさせてくれる。これはフィクションではなく、ニューヨークという街、現代美術が取り扱われる中心地、そこでアートで生きるということ。

 ここではニューヨークを語る話ではない。すべての古美術品は当時の現代美術であったのだ。当時の因習、固定概念を打ち破ったのが"当時の現代美術"であり、それが現在、古美術品として存在している。我々は過去の現代美術を鑑賞している。すべての美術品は、作られたときは"現代美術"である。

如何なる「古美術」もできた時は当然「現代美術」だった訳だが、今その古美術を観た時に、ハイ・クオリティの現代美術を観ている様な「新鮮さ」と「斬新さ」を感じられる作品に限って、古美術品としても一流なのである。それはその作品を長い年月残してきたオーナー達の眼がそれを感じてきたからで、一流品の「フレッシュネス」はどれだけの時を経てもなくならない また同じ意味で、今度は逆に今現代美術を観る際、「この作品が100年後、いや500年後にその新鮮さや斬新さが失われ、古臭く感じられないだろうか?」と考える事も大切だ。すなわち、「現代美術」は「古美術」に為った時に或る意味真の評価が得られるからで、この事は「美術史」が証明している。なので、現代美術(市場)を美術史から切り離して語る事は、 非常に危険な事だと考えている

美意識の値段 (集英社新書)

美意識の値段 (集英社新書)

  • 作者:山口 桂
  • 発売日: 2020/01/17
  • メディア: 新書
 

 

【感想(芸術−鑑賞法)】美意識の値段 山口桂

 本の帯に「大推薦」、「絶対に読む価値あり」とあれば、テレビのCMでいう「興行成績全米№1」と謳(うた)った映画と同じく、壮大なフラグとなることは間違いない(いい加減、この手のフラグは景品表示法で規制してしまったらどうだろうか(笑))。

 本書もご多分に漏れず、「大推薦」とフラグをたてていたが、推薦者が福岡伸一平野啓一郎の名前が使われていたので、フラグは考えす、まずは読んでみることに。結果、フラグが発動どころか、むしろ読後に美術鑑賞へ行きたい気持ちにさせてもらった。

 著者は2大オークションハウスの一つ、クリスティーズに勤めている(もう一つの有名どころが、サザビーズ。プロレスで言うヒールのような名前なのがまた興味深い。ベビーフェイスはもちろん、クリスティーズ)。そのジャパンデスクの代表を勤めているのが山口桂氏。長州閥を字にしたような名前だが、書いてある内容は至極まっとう(というと大変失礼)。プロの目線から、芸術について、その価値(金額や値段のことではない)について、教授してくれている。嫌味っ気は全く無く、むしろ素直に美術館へ足を運びたい気持ちにさせてくれた。

【3つのD】

 オークションハウスといわれて馴染みが無いので、その仕事についた著書を引用していきたい。美術品のオークションの大きなイベントとして、「3つのD」が存在する。それは

  • Death(死)
  • Debt(負債)
  • Divorce(離婚)

を意味する。どの言葉もその意味することはネガティブであるが、優良な美術品がオークション市場に出回るタイミングとしては、この3つのDが絡むことが多い。それについて著者は次のように述べている。

私がこの仕事を始めた頃にこの「3D」の機会に遭遇した時は、自分の勤めるオークション・ハウスがまるで死神か疫病神の様な不吉な物に思えたりもしたが、勿論今は違う。「3 D」の機会に於けるオークション・ハウスの務めとは、ひとりのコレクターが長い年月を掛けて大切に集めた美術品を、そのコレクターの名誉と共に調査研究し、美しい図録に掲載したり下見会を開催したりする事によって、新しい所有者を探して後世に残す、と云う大事な役割を果たす事なのだと理解している

 このような矜持(きょうじ)を持って仕事ができる著者を羨ましく感じるサラリーパーソンは多いと思う。

アートは人を介されば、決して存在しないし、受け継がれていかない。そしてアートはその持ち主の人生と共に、流転して行くのである。

 文学作品を読んだかのように、アートの流転に何か甘らかの甘美さを感じられる。

【来歴】
 ところで、美術品の値段はどのように決まっているのだろうか?ここが素人からは値付けはブラックボックスであり、どこか怪しさを感じるところかもしれない(本書を読んだ後も、個人的に美術品の査定についてはまだ訝(いぶか)しんでいる)。査定の際、大まかに次の4点が重視される。

 

  • 相場
  • 希少性
  • 状態
  • 来歴

 

 相場、希少性、状態は何となくイメージが湧くかと思う。ただ、この「来歴」とは何か?次のように説明されている。

 この「来歴」とは、その作品が辿ってきた「道」の事だ。例えば重要文化財に為っている長次郎作の黒楽茶碗《銘 大黒》を例に取ってみよう。この茶碗は長次郎の黒茶碗の中でも大振りな事からこの名前が付いているが、この茶碗程その「来歴」がはっきりしているモノも無い。この《大黒》の来歴は、恐らくはこの茶碗の制作者長次郎に注文したであろう千利休(一五九一年没)が所持して以来、利休の婚養子の少庵(一六一四年没)、孫の宗旦(一六五九年没)と千家を経て、一時宗旦門下の後藤少斎の元に移動するが、表千家四代江岑宗左(一六七二年没) の時代に千家に戻り、表千家七代如心斎宗左(一七五一年没)の頃迄千家在、その後三井浄貞の手を経て江戸時代中期には鴻池家に入り、戦後現在の所有者に移ったとされている。要は、十六世紀後半から二十一世紀の今迄、《大黒》の辿ってきた道筋、「来歴」の殆ど全てが判っている訳だが、この事実、四〇〇年以上の間戦争や地震の多かった日本で、《大黒》自体が失われずに残って来た事の次位に凄い事だと思いませんか 。

 当たり前ながら、幾多の災害や戦争を人類は経験している。美術より、明日の食料を求め、人類は多くの飢饉を経験してきた。それらを経てなお、その作品を残されてきたこと。その歴史、来歴の重みを感じることができると思う。

【鑑賞方法】

 著者は本書を通じて、本物の一流、一級品の美術品を鑑賞することが大事であると述べている。では、そのような素晴らしい作品が展示されている美術品を、どのように鑑賞すればいいか?

美術展での鑑賞法のヒントを聞かれる事も有る。この時に云うのは、先ずは展示室ごとに自分の好きな作品を決めてみては?と云う事である。例えばピカソ展 に行くとする。最初の展示室を見て、その部屋を出る時に、自分が好きな作品を一個覚えておくなり、一寸書き留めておくなりするのだ。自分個人の好き嫌いで構わない。そうして、次の 部屋に行く迄に、一分でも二分でも良いから、何故自分はこの作品が好きだと思ったのか?に就いて考えてみる。出来ればノートやメモ帳(会場で禁止されていなければスマホでも)に書いてみる事をお勧めする。色が良かったとか、構図が良いとか或いは其処に描かれた女の子が可愛らしいとか、何でも良い。それから、次の部屋に進んでみる。

 自分の感覚でいいらしい。この作業を展示室ごとに続けよう。

これを展示室ごとに続け、展覧会を観終わったら、今度は展示全体の中で自分の記憶を辿り、どれが一番良かったかを考えてみる。もしくは其処迄に挙げた展示室ごとのマイベストを、10個なら10個、今一度来た道を戻って観直してから、決めるのも良いだろう。その上で、何故それが一番だったか、改めて考えてみましょう、と云うのが私のお薦め鑑賞法である。

 著者はこの作業に加え、できれば図録をとって、作品の解説を読むことを推奨している。その解説によって、自分の中の考えがいろいろと影響を受けるであろう。

(続く)

 

美意識の値段 (集英社新書)

美意識の値段 (集英社新書)

  • 作者:山口 桂
  • 発売日: 2020/01/17
  • メディア: 新書
 

 

【感想(トランプ大統領の選挙力学)】メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 渡瀬裕哉

   トランプ大統領は何を考えているかわからないから。やっていることがアメリカ社会を分断していて滅茶苦茶だ。

  メディアで飛び交う彼への評価を目すると、前任のオバマ元大統領と比べ、メディアからのトランプ現大統領の評価は決して高くない。むしろ、なぜ大統領になれたのかが不思議に感じられるくらい、嫌われている。

   著者の渡瀬裕哉氏は、そんなトランプ大統領が就任する一年以上も前から、彼が当選するとした強く主張し、その根拠となるアメリカ選挙の分析結果を発信し続けていた。本書は、そんなトランプ大統領の権力構造を見事に分析している書籍である(それも1000円ほどで読めてしまう)。世界の経済は中国とアメリカの、それも指導者の動向で大きく変動する。できるビジネスパーソンであれば、ドランプ大統領についた、自分なりの考えを持たなくてはならない。そのような使える知識を、本書から抽出していきたい。

 

トランプ大統領をの権力構造】

   トランプ大統領を支えているのは誰なのか?渡瀬氏は共和党の保守派であると分析している。

 トランプ大統領共和党保守派の関係は「トランプ大統領がどのように誕生したのか」という選挙の力学を知ることによって理解できるだろう。米国は世界最大級の民主主義国であり、トランプ大統領であっても「選挙」で借りを作った人々の意向を無視することはできないからだ。

   誰しも、自分を引き上げてくれた恩人には大きな借りができてしまう。そして、それが現在進行系であれば、その恩人の影響力はなおのこと大きいだろう。トランプ大統領が借りを持つ、共和党の保守派とは何か?先に答えを言えば、どうやらペンス副大統領を中心とした派閥らしい。次の派閥の解説を読んでほしい。

トランプ政権は「共和党」、そして「保守派」の政権である。2016年大統領選挙は「民主党から共和党」「共和党主流派から共和党保守派」という二重の政権交代の産物であった。米国は二大政党であり、左右のイデオロギーの対立軸によって「民主党 = 左派」「共和党 =右派」という図式が成り立っている。民主党大きな政府を志向し、政府規模を拡大し規制や補助金などを通じて社会福祉を充実させることを目指している。これに対して、共和党は小さな政府を志向し、政府規模を縮小し、規制廃止や減税政策によって自由市場を活性化させることを求めている。(中略) 一方、共和党の中には「主流派」と「保守派」という2つの派閥が存在している。「主流派」 は中道的なイデオロギーが強く、民主党とも妥協の余地を持っている人々のことを指す。「保守派」は、その存在意義を米国の建国の理念に依拠する政治集団であり、民主党が主張するリベラルな政策全て反対する政治姿勢を持っている。

  共和党は「主流派」と「保守派」に派閥がわかれている。ちなみに、共和党の大統領として有名なのはブッシュ親子であり、彼らは主流派に属していた。保守派に分類されるのは、有名どころではレーガン大統領となる。

   トランプ大統領は、彼が今の権力を獲得する以前での、大統領選挙での立候補者の一人に過ぎなかった時、共和党の中ではアウトサイダー、外様であり、政治勢力を有してはいなかった。しかし、彼が勝利できたのは、どうやら予備選挙立候補者の濫立(らんりつ)が原因であったらしい。共和党内でスター候補がおらず、予備選挙でトランプは何とか勝ち上がる。この時、彼は共和党の主流派とは対立関係を続けていた。ここに手を差し伸べたのが保守派となる。

ヒラリーとの支持率差が大きく開いていく中、トランプに救いの手を差し伸べたのは「保守派」であった。保守派は当初はトランプのNY出身のリベラルな傾向や破天荒な言動に拒絶感を示していたが、大統領選挙を前にして民主党共和党主流派という敵の敵であるトランプを利用する政治的な賭けに出た。そのため、保守派は、政策、運動力、資金の全てをト ランプに提供し、その選挙運動の中核を半ば占有するに至った。(中略)

したがって、政権発足当時、トランプ政権は選挙・政局運営において保守派に大きく依存した状況となった。ペンス副大統領は大統領選挙直後に政権移行チームの責任者に就任し、政権の方針および政権人事に対して強い影響力を行使した。保守派シンクタンクであるヘリテージ財団が移行チームにスタッフを派遣し、保守派の意向を踏まえた政策立案が次々となされることになった。つまり、トランプ政権運営の根幹は完全に保守派が牛耳る形となったのである。かつて権勢を振るった主流派は政治任用職から外された者も多く、トランプ政権は保守派との運命共同体としてその政権の船出を迎えたのだった

   この記述は重要だ。2016年の大統領選で勝利したのは、トランプ氏ではなく、共和党の保守派だったのだ。では、保守派とはどのような人々がいるのか?渡瀬氏は次のように分類している。

  1. 伝統的保守派
  2. リバタリアン
  3. ナショナリスト

   伝統的保守派とは、アメリカの建国の理念に素朴な共感を持つ層と規定し、保守派のマジョリティを形成している。

   リバタリアン派は経済面、道徳面で絶対的な自由を是とする勢力であり、移民政策推進、軍事費削減、マリファナ同性婚はokと伝統的保守派とは社会政策は対立関係にある。

    しかしながら、この両者をつなぎとめているのは、小さな政府(大きな政府への反抗)の推進という、共通のテーゼから、緊張関係にありながらも紐帯関係を維持している。

  第3グループのナショナリストは政治的に新興勢力である(渡瀬氏は言及していないが、日本で言うネトウヨのような集団と思われる)。

   トランプ大統領は、この第三勢力を取り込み、共和党内での自らの政治的な影響力を持ち、リバタリアン派が脱落するという、変化が起こった状態。ただし、このリバタリアン派は、共和党の選挙で重要な足腰となる草の根の活動を行っている集団であったため、その支援を得られないトランプ現大統領の選挙については機能不全に陥っているらしい。

   2020年の大統領選挙の分析では、渡瀬氏はトランプ氏の再選は現時点では流動的であると予想している。これは逃げを打ったわけではなく、本書を読めば理解できるが、多くの選挙に大きな影響を与えるファクターが流動的に誕生し、アメリカ国内だけでも、社会情勢が日々大きく変化しているため、その予断を持つことは難しくなっている。その中でも、著者は冷静に分析をされているので、ぜひとも本書を手に取っていただきたい。

【社会の分断】

     社会の分断について著書の分析を引用し終わりとしたい。この分析は著者の地頭の良さが明瞭に感じられる。

近年では「社会の分断」という言葉を耳にする機会が増えているが、これは選挙マーケティング技術が発達したことと無関係ではない。人々は大学関係者なとの知識人によって複数の対立するアイデンティティのグループに分類され、そのグループ間の分断がメディアによって拡散されて周知され、そして分断されたグループ内でSNSによって自家中毒的なアイデンティティ強化が行われる状況に置かれている。さらにそれを政治利用することによって社会の分断は深刻さを増していくことになる。これは経済的な豊かさが達成された社会では必然的に起きることであり、ある意味では民主主義が成熟した姿と言えるだろう。

メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 (PHP新書)

メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本 (PHP新書)

 

 

【感想(ネガティブ・トリガー)】妻のトリセツ 黒川伊保子


【感想(ポジティブ・トリガー2)】妻のトリセツ 黒川伊保子 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

(「ポジティブ・トリガー2」からの続き)

  今回は、多くの男が踏んでしまっている女性の地雷、ネガティブ・トリガーについて説明していきたい。まずは、女性脳の機能について、もう一度おさらいしてみよう。

女性脳の、最も大きな特徴は、共感欲求が非常に高いことである。「わかる、わかる」と共感してもらえることで、過剰なストレス信号が沈静化するという機能があるからだ。それによって、怖かった、悲しかった、痛かった、寂しかった、惨めだった、辛かったという神経回路のストレスが軽減される。逆に共感が得られないと一気にテンションが下がり、免疫力も下がってしまうのだ。

 女性同士の会話は、この共感の輪を広げる行為にほかならない。男側だから見れば何も面白くない行為であるが、これには次のような根拠がある。

もう一つ、共感は女性脳にとって知的行為の核でもある。先述したが、女性脳は、体験データ(記憶)に感情の見出しがついているので、ある感情が起こったとき、その感情の見出しをフックにして、類似の体験データの数々が、芋づる式に一瞬で引き出される。面白いのは、他人の体験であっても、共感して感情の見出しがつけば、自分の体験と同じように扱える点だ。他人の体験談を「とっさの知恵」に変えるのが、共感という行為なのである。つまり、女友達が、「階段でつまずいて、転びそうになった怖さ」に共感すれば、自分が同じようなつま先の細いパンプスを履いて駅の階段を下りるときには、無意識のうちに手すりのわきを行くことになる。オチのない話が、明日の自分を救うのだ。男たちの言う「女の無駄話」が、子どもたちを危機から救い、夫の将来の介護に役立つ。女の会話に「無駄話」はないのだ

 オチのない話が、明日、未来の彼女らを救うことになるのだ。

 男が女友達として接するのであれば、「オチのない、ささやかな体験話(小さな愚痴や発見)」をプレゼントすればいい。相手からそのような話があれば、しっかりと共感すること。共感するフリで大丈夫。

男性は、自分から話題を提供するのがかなり難しいので、最初は、ひたすら共感することから始めるといい。もちろん、心から本当に共感できなくても大丈夫。共感するフリでいい。

たとえば、帰宅するなり、「○○(子どもの名前)が、寝かせると泣くから、ず~っと抱っこしていて、腰が痛くなった」と訴えられたとする。その場合になんと答えるべか。

 ここで質問が出てきた。あなたなら何と答えるか?まず、あなたが頭の中に浮かんだ回答はすべて間違いで間違いない。キッパリ、毅然(きぜん)と断定する。正しい解答を導けるわけがない。ではどうすればいいのか?

妻が求めている正解は、「一日中、抱っこしてたの?そりゃ腰だって痛くなるよ。本当に大変だったね」だ。解決策は必要ない。

あとは、「今日一日がどんなに大変だったか」を「うん、うん、わかるよ」「ひゃ~、 そりゃ大変だ」と頷きながら聞いていればよい。

 共感のフリをするのはつかれるが、それを演じているというプロセスを伝えられればいいのかもしれない。

【挽回方法】

 ネガティブ・トリガーを踏んでしまったときの挽回方法は何か?結論から言えば、それは無い!存在しない!残念ながら。。。

 もしあちらが過去の出来事を思い出してはブチギレているとしよう?それがつい先日でも、何年前であろうと、傷ついているのは今、この瞬間の出来事として、心にダメージを負っているのだ。

 

 それに対する、正しい対処法は、この一言。

 

「君に心細い思いをさせてしまって、本当にごめん」

 

 ただそれだけだ。

 

【教育方針の激突】

 子供の教育方針、家を買うか否かについて、それはどのように対処するべきか?意外ではあるが、そのままビジネスプレゼンを行えばいいらしい。やり方は以下の通り。

  1. 双方の提案に対して、お互いにメリットとデメリットを挙げる

  2. 実際に調べて検証する

  3. デメリットを回避する消極的なメリットではなく、互いのゲイン(手に入れられるもの)を示す

  4. 以上を踏まえて、結論を出す

 ここでポイントなのが、妻側のデメリットだけを主張して終わらせないこと。必ず、何か得られるかという強いものを提示すること。具体例を上げてみる。

  1. 公立に対して偏見があるのかもしれないので、夫婦で希望する私立だけでなく公立の - 小学校も見学に行く。校長先生などに話を聞く。周りの環境も見る。
  2. 実際に公立、私立に子どもを通わせている友人、知人に話を聞く。公立の一番のメリ ットは近所に遊び友達がいること。私立では、夏休みなどに遊び相手がいない。 デメリットは、教育水準が希望している私立に比べて劣る。中学受験、もしくは高校 受険が必要。
  3. 男として、息子が将来別の場所に暮らしていたとしても、帰ってきたらみんなが集まる、そういう地元のテリトリー作ってやりたい。そのためにも、せめて小学びは自宅近くの公立に通わせると提案。
  4. 夫婦で、公立小学校の周囲にある公園で、多くの男子小学生が楽しそうに遊ぶ様子も見学。

以上を踏まえて、妻が十分に納得した上で、長男の公立小学校入学を決めた。

 めんどくせえなぁ。

 

【名もなき家事】

 女性が抱えるストレスには家事の業務負担がある。大体の男が認識する家事とは、女が認識する家事の中で末席に位置されるイージーモードな家事のone of themだとか。

 子供を出産すると、さらにやるべきタスク、名もなき家事が増える。ただし、男がそれらをすべてやろうとしてます、女性脳を有していない限り、ストレスはその3倍だとか。代替して行えるのは次の行為となる。

夏の昼時、妻がそうめんをゆでていたら、「こんなに暑い中、台所仕事は大変だよね、ありがとう」と声をかける。休日に一緒に買い物に行ったら、「牛乳1本だって、赤ちゃんを連れてたら、運ぶの大変だよな。いつも一人で頑張ってくれてありがとう」と言う。「うちは、小さな子がいるのに、本当によく片付いてるなあ。おふくろなんって、しっちゃかめっちゃかだったよ」なんて、この際実母を悪者にしてもいい。何でもね

ぎらい、感謝する。何もできない妻でも、「笑顔でいてくれて嬉しいよ。ほっとする」とねぎらう。とにかく、ねぎらい、感謝する。毎日じゃなくていいのである。毎日じゃ、かえって嘘くさい。月に一度だって、かま わない。ぜひ、心がけてみよう。

 やるべきことが多くて、うんざりした男性、新米パパも多いと思う。注意が必要なのは、これだけのことをやっても、著者いわく、今まであった10の被弾が7の被弾に減るだけと述べている。道は険しい。。。

 

【あなたって、どうしてそうなの?!】

 著者いわく、このセリフはどうやら離婚問題へつながっているカウントダウンらしい。このストレスが妻側のストレス耐性があるコップの中に一滴ずつ溜まっていき、溢れ出してから離婚へとつながる。

 小言を言われたからと、すぐに反論するのは小者がやること。収集がつかなくなる前に、「何度も嫌な思いをさせてごめん」と収めるのが、正しい対処療法。

たとえば便座。夫にとっては、「上がっていたら、下げりゃいいだけ」だし、「スリッパを適当に脱いだら、多少見栄えが悪い」くらいのことだ。しかし、もし、妻が便座が上がっているのに気づかず腰を下ろしたら、お尻を便器に打ちつけたり、便器に嵌ってはま しまったりする。これが、年老いた親や小さな子どもであれば、大きな怪我をする可能性もある。子どもに気を取られつつ洗濯物を抱えながら部屋に入ったら、夫が脱ぎ捨てた靴下やスリッパを踏んで足をすべらせる可能性もある。風呂のふたを閉め忘れたら、子どもやペットが落ちて溺れるかもしれない。女性脳は、無意識のうちに、このような先へ先へのリスクヘッジをしているのである。何度言っても改善しないと、「ちょっと不安」「なんか怖い」といった感覚がたまっていって、ある日、閾値を超えネガティブトリガーを 引く。無意識の感覚なので、理路整然と説明はできないのだが、突き詰めてみれば、明らかに高リスクの事象に、女性脳は反応している

 何を大げさなと思うが、彼女らなりのリスクヘッジと言われると、少しは納得できる(わけはないが)。家の中は女性脳のテリトリーと考え、男性脳を有する人間には常にアウェーであることを意識していこう。

妻のトリセツ (講談社+α新書)

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【感想(ポジティブ・トリガー2)】妻のトリセツ 黒川伊保子


【感想(ポジティブトリガー)】妻のトリセツ 黒川伊保子 - 鳥木ケンのブログ 〜金融系が多め

(前回から続き)

 今回も引き続き、男性が彼女や妻と良好な関係を維持できるよう、女性脳へプラスに働くポジティブトリガーとなる事例をいくつか紹介する。同時に、ネガティブトリガーについてもいくつか紹介していきたい(本書はあくまでも、脳科学としての知見ではないことに留意ください)。

 まず、以下の引用文を読み、女性脳の特性を感じてみよう。女性がちやほやされたい、依怙贔屓(えこひいき)されたいその理由を。

(引用者注記:女性が)ちやほやされたいのも同じ理由。誰よりも優先されるということは、自分と自分の子どもの生存可能性が確実にアップする。女性脳は、自分と自分が大切に思う人のことを最重要視し、愛情と時間を注ぎたい、究極のえこひいき脳なのだ。だから、いつもどんなときも相手を思うことを、愛の行動だと信じている。残念ながら男性脳が向かっているのは、自分よりも、世界や宇宙。「自分の気持ち」に関心がないから、自分の身内=妻にも関心が向かない。妻を自分の近くに感じれば感じるほど、 関心は薄れていく。それが男性脳だ。

 では女性に自分に関心が向かっていると感じてもらうにはどうすればいいか?前回のブログに書いた記念日を作りすぎるのも難しい。しかし、ちょっとした工夫の仕方はある。

【ふだんの、何もない日】

結果よりも、プロセスを重視する女性脳は、夫や家族のために、毎日繰り返し行う家事を大切にしている。「ありがとう」と言うのが難しい夫は、妻が継続してやってくれ ていることに対して「君がずっとしてきてくれたことをちゃんとわかっている」と伝えよう。伝えるタイミングとして、一番言いやすいのは、やはり結婚記念日。わざとらしくなく、10年なら10年分の、20年なら20年分の来し方を振り返ることができるからだ。記念日の朝、「君の味噌汁を飲むのも、もう20年になるんだね」としみじみ言ってみてほしい。妻の脳裏には、これまで何千回と繰り返してきた、味噌汁を作るシーンが思い浮かぶ。「君が僕のためにずっとずっとやってきてくれたことを、僕はちゃんとわかっている」というメッセージは、どんな愛の言葉より、妻の心に響く。

 また繰り返し、記念日での正しい立ち振る舞いについて紹介されている。ここで気づいてほしいのは、日々、あなたの彼女、妻が、あなたや子供のために行っている日々のタスクについてだ。大抵は家事が該当するであろう。ここで、ふだんの、何もない日に「いつものこと」、「いつものタスク」がたまたまなかった日に、このように伝えてみよう。

いつも弁当を作ってくれる妻が、忙しくて作れなかった日に、帰宅してから「君の弁当を楽しみに会社に行ってたことに気づいたよ」と言う。

いつもコーヒーを淹れてくれる妻の代わりに自分でコーヒーを淹れて飲みながら「やっぱり君が淹れてくれるコーヒーのほう美味いんだよね。なんでだろ」と言う。

ポイントは、「君がいつもやってくれている、それ」がなくなったら、僕は途方に暮 れてしまうとアピールすることだ

 何じゃそりゃと思うが、どうやらそれがポイントらしい。簡単にできるから、すぐにやってみよう。

Don't think, FEEL!

 

【メール(事実)】

 なんでもない事実をラインしてみよう。例えば出張中であれば、「今、名古屋駅を通過中」と、ただそれだけだ。

 こんな連絡がきただけで、女性は頭の中で色々と都合よく変換してくれるらしい。

たとえば、出張帰りの新幹線から「今、小田原通過。満席」で十分。男性脳の得意な「事実」だけ。それを、女性脳は勝手に「小田原を過ぎたから、もうすぐ家に帰れるよ。もう今日はクタクタだよ。君の顔が早く見たいな」と翻訳してくれる。

車窓から撮影した面白い雲の写真1枚でもOK。受け取った妻は自分も空を見上げな がら、「今この瞬間も君のことを考えていたよ」と翻訳する。

「久々に君のカレーが食べたいな。あのひき肉と豆が入ったやつ」なんて、しばらく食卓に上っていない妻の得意料理をリクエストするのもいい。こんなメッセージが来た ら、女性脳は嬉しくなる。

キーマカレーか。じゃあ、ひよこ豆買って帰らなきゃ」と、今晩カレーを囲む家族の姿を思い浮かべて、その段取りを楽しむことができるからだ。さらに、自分が料理に心を込めていることをちゃんとわかってくれていて、リスペクトしてくれているのだから、好感度はぐっと上がる。

 嘘みたいだか、これが本当(マジ)らしい。「どこにいても、君のことを思っているよ」という気持ちを伝えられれば、我々のミッションは達成となるらしい。昔の(チープな)格言で、男は背中で語れはウソ、大嘘。ただ、口ベタを隠してるか、性格がチキンで自分の主張ができてないだけだったのだ。

【オウム返し】

 しかしながら、返信に困るラインが届くこともあるだろう。その場合は、オウム返しが有効。やり方は次の通りとなる。

「バスがなかなか来ない」なら「〇〇行きのバスはよく遅れるよね。お疲れさま」。

「雨降ってきた。嫌だな」なら「雨だね! 気をつけて帰ってね」

と、妻の言葉をオウム返しにすればいいだけだ。これは共感を何よりも大切にする女性脳が日常的に使っているメソッド。「バスが来ない」というメールに「朝は道が混んでるからね。明日はもっと早く家を出ればいいんじゃない」なんてアドバイスを返すより、情報量はゼロでも心の通信は繋がる(はずだ)。

 著者はオトコ心を判ってらっしゃるためか、繰り返し、繰り返し、男は女へアドバイスをするなと主張されている。多分であるが、コンサルティングで男サイドの顧客と接しても、どうしても男の反応はアドバイスを出してしまうシーンをたくさん見てきたのだと思う。著者が口酸っぱく主張しているので、同じミスを繰り返さないようにしよう、なぁみんな!!

【定番の幸せお菓子】

 妻を喜ばせるのなら、手土産を買っていこう。決して高価なものを持っていき必要はない。さらに、普通の日に渡すのがポイントになるとのこと。記念日てもない日に、彼女や妻を気にかけていることを伝えることがポイントとなる。百貨店のデパ地下などに軽く足を伸ばして、そこで買ってきたもので全然構わない。ちょっとしたプレゼントのために足を伸ばしたという、そのプロセスを女性に感じさせればいいのだ。

 もう一つは、会話の中で言及された商品があれば、それを買ってくればいい。「君がこれが好きと言ってたから買ってきたよ」と伝えればいい。過去の何気ない会話を気にかけてくれた気持ちが伝わるから。

 さらにもうワンステップ上のお土産があふ。

「定番の幸せお菓子」なるものを一度設定しておくと、これからも避けられない 妻との数々のバトルの際に、強力な武器になる。ここで、その作り方を説明しよう。

①「定番の幸せお菓子」は、○○のミルクチョコレートとか、 のクリームキャラメ ルとか、口口屋のあずきバーのように、コンビニや近くのスーパーなどで手軽に買えて、それ自体も定番であり、いつもあるものを選ぶ。

②「これ昔から好きなんだ。食べると幸せな気持ちにならない?」と言いつつ、妻にもすすめて一緒に食べる。

③その際に、妻が幸せな気分になれる昔ながらの定番お菓子も聞いておく。 

④気の利く妻なら、ときどきそのお菓子を買っておいてくれるようになる(はず)。当然、妻の好きなお菓子もときどき買って帰ろう。

⑥定番のお菓子は、デートのとき、旅行に行くとき、家でくつろいでいるときなどにいつもあるようにしておく。

以上がふたりが幸せな気分になれる「定番の幸せお菓子」の作り方だ。もともと互いに好きな定番お菓子がある場合は、もちろんそれでかまわない。

 この「定番の幸せお菓子」を設定すると強力な武器になる。あなたが仮に喧嘩した場合、これを持っていって仲直りのきっかけづくりにしていく。

【愛の言葉(時と場合を選べ)】

 好きである気持ちを伝えるのは大事だ。それで男がチョイスする言葉は「君が一番好きだ」と言いがちだが、女性からすると「2番目は誰?」と高度な分析をしてしまう(なんて厄介な?!)。もし伝えるとすれば、次の言葉にしよう。

 

  • 「一緒にいることに意味がある。そんな女は君だけだ」

  • 「自分にとって、君が オンリーワンの女だ」

 

 何て人たらしな言葉なのだろう。

 ただし、時と場合を選んで、この言葉は使わなければならない。喧嘩した翌日に、このような言葉を使うのは白々しいし、そのような嘘はすぐにバレる。

 

女性を褒めるのは、本人が幸せな気持ちでいるときが鉄則となる。

 忙しくて、朝からバタバタしている時に、できあいの朝ごはんを前に褒め言葉を出そうが、イヤミと感じられて、ネガティブトリガーを新たに生み出すだけだ。

 褒め言葉を、マイナスをプラスにするための道具として使うのは、戦略としてはイケてない。幸せなとき、つまりプラスの上にプラスを乗せれば、その効果は予想以上に大きくなる

(ネガティブトリガーへ続く)

妻のトリセツ (講談社+α新書)

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