【書評】ダークツーリズム 丸山ゴンザレス

 著者である丸山ゴンザレス氏は、TV番組、クレイジージャーニーに出演される、危険地帯をメインに取材を重ねているジャーナリストである。

 私が彼を知ったのは、YouTubeで゛ルーマニアのマンホールタウン゛なる謎の動画をお奨めされ(グーグルのアルゴは、何で私の気持ちを解ってくださっているのか)、その動画を視聴して彼を知ることとなった。

 その動画の内容とその背景を単的にまとめれば、

 

  1. ソ連崩壊により旧東側国の一員であったルーマニアの社会制度、秩序が崩壊
  2. 恵まれない子供たち(当時の悪名高いルーマニアの大統領、チェウシェスクによる多産政策により産まれた子供)が、親や養護施設から捨てられる
  3. ルーマニアの冬は北海道よりも凍てつき、屋外では生存できない
  4. 暖を取れる場所として、彼女ら彼らが集まったのがマンホール
  5. その子どもたちが、マンホール内での生活から抜け出せず、成人して以降もそこで、薬物中毒者として生活している

 

 本題に戻ると、そこの出演者であった丸山氏の応援を兼ね(印税が彼に届くことを祈り)、今回、書評する著書を手に取ることとなった。

 丸山氏の取材範囲は、国内の反社会的勢力にとどまらず、国外のスラム街、マフィアなど多岐にわたっている。

その中でも危険な取材だなと感じられたのが、メキシコでの麻薬カルテル・マフィアへの取材についてである。こちらもTV番組の同行取材があるので、動画と書籍の両方に目を通して欲しい。まず、知り得ない世界を追体験できるので。

 ネタバレはよくないので、詳しいことは書かないが、麻薬カルテルからの丸山氏への警告には、背筋が冷たいものを感じた。連中の手段として、何時に起床するかわからないジャーナリスト(丸山やその同行者)に対し、24時間監視しているかのように、その存在感をマフィアは示してくる。その具体例を、体験談を、ただ本で読んだだけにも関わらず、もしかしたら自分の背中を誰かが監視しているのではないかと恐怖を感じた。

 これは著者の筆致が上手(うわて)である面もあろうが、マフィアのそれが、人間の本能的な、根幹的な何かに恐怖を植え付けるのにたけているのだと感じる。本当に、よく無事に、取材から帰国できたなぁと感心したが、どうやら全く無事だったというわけではなかったようだ。後日、取材の関係者が、帰国から3日後に殺害されてしまったことを知る。

 

 この取材の過程で、印象深いセリフが登場するので、引用したい。この発言者は、メキシコ麻薬戦争の取材時、取材のコーディネートをしてくれたメキシコ人ジャーナリストの言葉である。彼は常にカルテルから、マフィアからの脅しを受けながらも、果敢(かかん)に取材を続ける真正の、本物のジャーナリストである。その彼から、丸山氏へ警告として発せられたセリフである。それは、どこか詩的めいていて、甘美ささえ備えている美しい表現ながら、この取材で必ず接することとなるマフィア、カルテルについて、その意味するところを余すことなく伝えてくれている。

 

「連中から接触してくるかもしれない。
それが君の望む使者で、君の望む取材ができるかどうかは、彼らだけが知っている。」

 

世界の混沌を歩く ダークツーリスト

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