【感想(ネタ)】セックスと恋愛の経済学 マリナ・アドシェイド

   本書のタイトルでジャケ買いをしてしまった。刺激的なタイトルであるが、中身は至ってまじめな、学術的な裏付けのある内容である。主に、行動経済学をベースに、セックス、結婚、妊娠の機会費用との比較考量からセックスをするか否かについて説明してくれている。今回はランチのネタになるようなおもしろネタをピックアップしていきたい。ただし、酒の席ではセクシャルハラスメントと訴えられても抗弁できないので、子のネタをはなすのであれば、各自の責任のもとにお願いしたい。

【熟年恋愛市場】

    こちらはランチネタとして語れるオモシロ話になると思う(あくまでも若い人同士のランチでの話)。女が妊娠する可能性がない年齢となり、男は生殖のためのパートナー探しから開放された状態、いわゆる熟年者の恋愛について、本書では以下のように考察されている。

(引用者注記:高齢の)女性は、最も質の良い子供を得たいという生物学的インセンティプを失います。そしてそれとほぼ同時期に、カジュアルセックスの経済学的阻害要因、すなわち望まぬ妊娠による生涯収入の低下や以後の結婚可能性の低下などもなくなるのです。
    一方で、高齢男性は、当初こそより若く妊性の高い女性を探して自らの妊性の衰えを補おうとするかもしれませんが、ある年齢を境に(とりわけ妊性がある女性を得る見込みがなくなったときから)、性的判断も生殖のための生物学的衝動から解放されてしかるべきです。そしてこの変化もやはり、男性が新たな経済学的インセンティブを得る時期とおおむね一致しているのです。すなわち老後の介護をしてくれる女性です。

   熟年恋愛マーケットでは、男がパートナーを欲するのは、自身の介護要員としてのインセンティブを持つとしている。それに対し、女性はどのようなインセンティブを持つか? 

男女の平均余命差は縮小してはいるものの、高齢カップルの家庭づくりにおいては、女性はやはり比較優位を持っています。それは家事能力という著しく過小評価されている能力です。しかし第4章で論じた家庭内での交換においては、男女双方が何かしらを提供しなければなりません。女性にとって家事や介護の負担が結婚生活を通じて得るものよりも大きければ、さらにカジュアル・セックスがより手軽に得られるのなら、長期的な関係を結ぶより独身を続けた方が良いことになります。

   熟年男性には熟年女に対して与えられるカードがないのに対し、熟年女性は家事能力という強いカードを持っている。また、女性サイドは独身でも問題ないというカード(妻をなくした高齢男性は5年以内に死ぬ可能性が高いが、性別を逆にすると、女性の生存率は高いまま)を有しているので、なおさらつよい。この恋愛市場では男性より女性の方が参入者は多いにもかかわらず、キャスティングボードを握っているのは女性サイドとなる。まとめると、

熟年恋愛市場では、男は長期的な関係を、女性は短期的な関係を求めるようになる。

   本書では、最終的に上記の傾向があると分析している。

 

【買春市場の価格(性病編)】

 「 性病の感染リスクの高い場合、サービスの対価はとても低くなる」

     もしこのような言説をいわれた場合、あなたの頭の中に大きな?マークがつくのではないだろうか?私も同じように思ったが、著者は以下のように述べている。

    無防備なセックスの買い手1人に対し、2人の売り手がいたとします。1人の売り手は性病は絶対に持っていないとわかっていたとします。もう1人については性病罹患者で、無防備なセックスをするとうつされるとわかっています。さて、彼はどちらの売り手に対して、無防備なセックスの対価としてより高い価格を支払うでしょう? 感染リスクのない方に決まっています。実際、性病をうつされそうな相手にいそいそとお金を支払う人がいるはずがありません。不思議に思われるかもしれませんが、性病罹患率の高い環境で価格交渉をする際には、自らがコンドームを使いたがらないにもかかわらず、高いリスクを引き受けることの代わりに値引きを要求できるのです。

   買い手(オトコ)が売り手(オンナ)に対し、性病感染リスクがあるセックスをサービスするとした場合、売り手は高い値段を買い手に要求することとなる。ここまでは、普通に納得できると思う。しかしながら、既に病気持ちの売り手(その可能性が高いオンナ、サービス提供者)であれば、逆に買い手からディスカウントを要求されてしまうのだ(なんて無慈悲な!!)。

    供給サイドから言えば、感染の危険が高まる無防備なセックスに応じるにはそれだけ高い対価が必要なはずです。これは、感染していない売り手についてはその通りです。実際、その売り手はそんなリスクを引き受けるわけにはいかないので、コンドームを使ったサービスしか引き受けられないでしょう。

    しかし既に病気を持っている売り手は、安価に無防備なセックスに応じられます。いまさら感染のリスクを気にする必要はないからです。買春者は、「値段相応」という言葉を覚えておくべきです。あるいは、セックス市場では、コンドームさえ使っていれば避けられたかもしれないものをもらってしまう、ということかもしれません。

   安い風俗では病気をもらいやすいことが、経済学の観点からも説明はついてしまうのである。

 

【ヤリマン・ヤリチン】

    言葉は悪いので使いたくはないが、性的に活発な男女についてである。こちらについては結論だけを述べる。経済学的な説明としては次のように述べられている。

    雇用と生活賃金を稼ぐという両面で教育の重要性がそんなにも高くなっている以上、若い男女は学業の妨げになるあらゆる状況、例えば妊娠などを慎重に避けるようになりそうです。つまり教育がますます重要になるにつれて、青年層から若い成人層の間で婚前交渉や性の乱れは減っているはずです。現にそうなっていない理由は、多くの若者にとって、性体験をしようがしまいが学業を続ける展望が開けないことです。これはもちろん、高等教育は容易に与えられるものではないからです。

   結論は悲しきかな、将来の収入の見込みが低ければ、性的に活発になる。どうせヤル、ヤラナイに関係なく、自分の状態は底辺となるのだから。

    ここではヤングアダルト層がヤリまくっているのは、大学の学費が高いためと言えば十分でしょう。学費が高いと、若者は進学をあきらめて性行動を活発化しやすいのです。米国の10代の妊娠率が高等教育の学費がもっと安い他の先進国に比べてはるかに高い理由の仮説の1つです。大学進学が高嶺の花である理由は高い学費のせいだけではありませんが、明るい展望が開けない学生にとって、性的に乱れることのコストは、高い教育と収入が期待できる学生たちより、はるかに低いのです。

   また本書ではやりまくっている女性として、次のような説明もされている。

    第1の集団は、学歴も経済的展望もないに等しく、性の乱れのコストが低いために乱れていました。第2の女性集団は、教育程度も経済的自立性も高いが、コストが低いからではなく(むしろ非常に高いか)それを負担できるがために、性的に活発でした。

   高学歴高収入のオンナがお盛んなのは、それで妊娠したとしても自分の経済力で子供を育てられるからだ。具体例とすれば、芸能人のシングルマザーを想い起こせば理解できると思う。将来の稼得能力(おカネを稼ぐ力)で合理的な行動を男女は行っているのだ。

(続く)